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「ねぇ、お父さん、紗綾ちゃんは大丈夫なの?」


 香織が紗綾を見て心配する。さっきまで窓際で椅子に座り、ぼんやりと外を眺めていたのに、今は両膝を抱え顔を伏せている。


「うん、せやな~、わしらも色々とフォローはしてるんやけど、今はそっとしといてあげた方がええような気がしてな」


「そうなのね。あと、もう一人の男の子はまだどこに行ったかわからないの?」


 もう一人の男の子とは、涼平のことだ。紗綾は大方気づいていた。涼平が一種変わった猫だったことを。善三も薄々だが気づいていた。けれど、確かでないのでそのことは口に出せなかった。いや。確かであっても言えなかっただろう。他のメンバーはまったくわかっていない。なぜ、あのとき涼平が開いていないドアからいなくなったのかを。あの後、警察と消防が大規模な探索を繰り広げていたが、未だ見つけだせないでいた。


「う~ん、せやな……」


  言葉を濁す善三。とそこへ、傍らにいたアンナが喋りだす。


「まあ、涼ちゃんのことだし、またひょっくら現れたりして。それに、あの子はそう易々とくたばらないわよ、ねえ、善三さん?」


「あぁ、せやな…」


「でもお父さん、ちゃんと紗綾ちゃんをみてあげてよ。一番、落ち込んでいるはずだから」


「あぁ、せやな」


 そうは言ったものの、善三も憂鬱な面持ちを浮かべていた。人を助けるには、まず自分が先に助からないと。今の善三では、紗綾の行く末を見守る余裕なんてものはない。だからといって放っておく訳もいかず、どうしたらいいものかと思いあぐねいていた。


 だが一方で善三は、ひょんなきっかけで偶然知り合い行動を共にした紗綾と過ごす日々をとても大切にしていた。あたかも、娘との時間を取り戻すように紗綾と同じ時を送っていたのだ。また紗綾も気づけば善三を父のように慕っていた。

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