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アンナがボケをかましていたとき、部屋の片隅に置かれているテレビから天気予報が流れだした。皆から少し離れた窓際では紗綾が、この天気予報を見ていた。
『今日は、お昼頃まで晴れますが、天気は下り坂へと向かうでしょう。夕方からは雨が降りそうです。お出かけになる際は傘を持っていった方が良さそうです。そしてこのあとも西高東低の冬型気圧配置がしばらくつづきそうです。それに、この時期は秋雨前線も発達しますので、雨が降る度に気温が低くなってくるでしょう……』
リハビリが終わったばっかりの紗綾はテレビから窓の外の方へと視線を移し思いにふけっていた。
さっきまで晴れていたのに、どんよりとした雲が今にもこぼれ落ちそうになっている。それにまだ昼でもないのに、ポツリポツリと雨が降りだしてきた。日に日に天気が悪くなっていく、寒くもなっていく。
ああ、そのまま私自身の希望のようだ。半年前は嫌なことも怖いこともあったけれど、どこか先々が明るく見えていて夢があった。それにバカみたいに有頂天にもなっていた。なのに、これからの天気は、まるで私の人生よう。曇天の空に押し潰されそうな心持ちの紗綾は、「はぁ~~」と、南極の氷床よりも深いため息をついた。
約半年前、紗綾はとても大きな希望を一瞬にして失った。紗綾が持っていた当たりくじが爆発によって消し炭になったからだ。もしものためにとスマホで当たりくじの写真を撮っていたが何の意味もなかった。さらに、かけがえもない友も失った。
紗綾が意識を取り戻したのは今から二ヶ月前のこと。約4、5カ月も昏睡状態だったが奇跡的に意識を取り戻した。医者もさぞ驚いただろう。本来ならあのまま息をひきとっていたはずなのに。今更ではあるが、それには涼平の力が必要不可欠だった。涼平が紗綾と善三に自身の命を分け与えたからこそ生き返れたのだ。そのことを紗綾は夢の中で感じ取っていた。とてもリアルな夢だったので頭の中に刻み込まれていたのだ。善三もなんとなくだがそのことに気づいていたようだ。
けれども、命あっての物種なのだろうが、今はそうも思えない。悔やむばかり。
あのときどうして、涼平君を連れて行ったんだろうとか、どうして、さっさっと当たりくじを銀行の貸金庫に預けなかったんだろうとか、すぐに銀行に持っていけば良かったとか、言い出せばキリがない。でも、私のために一生懸命頑張ってくれたみんなの前では、そんなこと口が裂けても言えはしない。
「はぁ~」と、もう何度目かわからないため息が漏れた。
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