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「それよりまさる、ホテル、クビになるんだったら、あなたもドラッグクィーンになりなさいよ。あなたならきっとやれると思うわ」
「いやいやいや~だから今の僕の話、聞いてた? まだどうなるかわからないから~、それにもしそうなったとしても最後までは自分の仕事をまっとうしないとな。あとそのドラッグクィーンとやらには絶対にならないから!」
そんな、なにげない総支配人の言葉が香織の頭に入り込んだ。確かにそうだ、このまま気を揉んでいてもなにもならないと、香織が気分を一新させた。
「そうですよね。今さら、じたばたしても何も始まらないですもんね。──総支配人、私も今まで通り全力で働かせてもらいます」
「さすがは芹沢さん、よく言ってくれた。他のスタッフ達も不安に思っているだろうけど、お客様には迷惑をかけれないから、サービス面だけは怠らないように皆の気を引き締めてもらえれば助かるのですが…」
「はいそれは、ちゃんとみんなにも今まで通り頑張ってもらうよう指導していきます」
「ありがとう。──でも八雲さん、娘さんを真っ直ぐに育てられましたね。ほんとうに立派です、関心します」
まさるが善三に向かい感謝の意を表した。
「いや、私は娘が小学生のときに家を出ましたから。これといってなにも……ハッハハ」
恐縮する善三は渇いた笑いをしつつ娘の顔を恐る恐る伺った。傍にいた香織は終始ニコニコ顔。やはり上司の前では猫の皮を二枚も三枚も被っているのだろう。
「いやいや、三つ子の魂百までと申しますし、さぞ幼少の頃は娘さんに愛情を注がれたのでしょう」
「ハッハハ、ハ、ハ、ハ……」
途切れ途切れに笑い最後にはトーンが小さくなっていく。善三の額から変な汗が滲みだす。
すると、そんな会話を横取るようにしてアンナが口を挟む。
「それなら私も三つ子じゃないけど、百歳になるまで、まさるを愛する自信があるわよ」
「だから太一、それは意味が違うって」
「ハッハハハッハハ」
狭いデイルームに刹那的な笑いが広がった。正直、これから先、仕事やら人生をどう切り抜ければ良いものかと一抹の不安を抱える者ばかりだった。
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