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今まさに息絶えようとしていた紗綾と善三は、この不思議な光によって心臓が鼓動しだす。呼吸も徐々に正常にもどっていく。
「おい、呼吸をしだしたぞ」
「なに!?」
「バイタルも安定。正常値だ」
「よし、すぐに運ぼう」
隣にいる善三も同じように心拍数が安定しストレッチゃーに乗せられる。次いで、自力では歩けないアンナと高槻も後から来たストレッチゃーで移送された。
しかしこの後も、紗綾と善三の意識は戻らなかった。これから後の紗綾はとてつもなく長い夢を見ることになる。
夢の中では、小学生の頃、痩せ細った子猫と出会った頃の記憶を甦らせていた。川で溺れそうになっていた子猫を助けだし家に連れて帰ったのはいいが、母親に猛反対されしぶしぶ近くの空き家で飼っていた時のことを。
その子猫にミケと名付けた紗綾。来る日も来る日も学校の帰り、ミケにミルクや缶詰を与えていた。それも、紗綾が貯めていたお年玉やおこずかいで。
ミケは、紗綾の献身的な世話のおかげで成長し、いつしか紗綾を母親のように思うようになっていた。紗綾によくなついたミケ。紗綾もまたミケを自分の子供のように接していた。
だが、そんな二人にも別れが訪れることに。紗綾が、家の事情で引っ越すことになったのだ。引っ越すといっても京都市内。けれども、子供の足ではとても通えるような距離ではなかった。
涙ながらの別れ際、紗綾はミケが保健所に捕まってはならないと首輪をつけ、その首輪に貝殻を細工しキーホルダーのようにしてつけた。おはじきぐらいの大きさ貝殻。アンモナイトを小さくしたような形だった。夏休み家族で旅行に行ったとき、海辺で見つけたもの。とても大切にしていた美しい貝だった。
こんな綺麗な貝殻を首輪につけているのだから、保健所や悪い人には連れて行かれないだろう。子供ながらの精一杯の知恵だった。
そのような昔の記憶が夢として、とてもリアルに映しだされていた。その上、不思議なことに紗綾の瞳には、ミケと涼平が被って見えていた。
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