善と悪の分水領
空腹のまま百貨店から家路へと向かう紗綾。
途中、家の近くのスーパーに寄ることにしたようだ。
(そうだ、ここにも前にホットプレートで焼いたウインナーの試食をやってたんだ。でも、今日はさすがにやってないだろうな……)
紗綾はほんの僅かな望みにかけて、店内に足を運んだ。
(あぁ~、やっぱりだめか。しょうがない、とりあえず家に帰ろう)
そう思った紗綾だが、パンコーナーの横を通ると焼きたてのパンの良い香りが食欲をそそらせた。
そのとき、突如、魔が差してしまう。紗綾の脳裏に邪な考えがよぎったのだ。
(一つだけなら、バレないわよね。宝くじを換金できたら、このスーパーに匿名でお金を返せばいいんだわ)
目の前には、ビニール袋に入った明太子フランスというパンがいくつか並べられている。紗綾が時々、買っていたお気に入りのパンだ。
(そういえば大学で性善説と性悪説の講義を受けたことがあったっけ。その当時は人間の本質は性善説だと思っていたけど、やっぱり人間ってお金に困ったら悪いことをする生き物なのかも。結局、人間の本質は性善説かもしれないけど、悪の部分とかもあるんだよな。そう、だから今は、きれい事を言っている場合じゃないし。これぐらいなら神様も許してくれるはず)
そんなのことを考えていた紗綾は周りをチラチラと見渡してから、そろりとパンに手を伸ばした。そして素早く自身のバッグに投げ入れた。
なにくわぬ顔で、早々とスーパーを出た紗綾は家の方へと向かう。
ところがどっこい、不運なことにこの紗綾のこの一連の行動を一部始終、見ていた者がいた。
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