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 しばらく老人と話した後、紗綾と善三はさきほどの古民家へと足を向けた。


 寛太の実家である古民家に戻ると、すでにアンナと高槻が玄関戸を開けて家の中に入っていた。


「あっ、紗綾ちゃん、さっき、涼ちゃん、えらい興奮して叫んでたけど、なんか面白い物でも見つけたの?」


「いえ、なんか、この辺りに温泉の水脈があるって言ってました」


「へぇ~、そうなのね」


「えっ! アンナさん疑わないですか?」


「うん。だってあの子、お母さんと一緒で視えるみたいだし」


「?? みえるって?」


 その問いにアンナは手の甲を紗綾に向け、すべての指をだら~ん下げて、「だから、これよ」と言った。


「そうだったんですか! えっ、涼平君もだったんですね!」


「うん、涼ちゃんもお母さんもだけど、ほんとに謎が多いのよね。これは私が思ってることなんだけど、多分あの2人、未知の生物かなんかじゃないかしら」


 アンナがそう言ったあと、面白そうに「うふふ」と笑った。


(やっぱりさっき見た耳と尻尾は目の錯覚ではなかったかも)

 紗綾は、そんなことを思いつつ家のなかを見回した。


 殺風景な家の中。壁の上の方には寛太さんのご先祖さんだろうか、幾人かの古ぼけた写真が掛けられている。どことなく寛太さんに似たおじいさん、おばあさん、それに軍服姿の男性もいている。どれもこれもが古い時代の写真。台所に目をやると、隅っこには必要最低限の調味料の使いかけが置かれ、数少ない食器には白い布が被せられている。その隣には小さな冷蔵庫。床には抜かれたコンセントが横たわっていた。


 その他には、ほとんど何も見あたらない。家具もなにも。さっきの老人が言っていた通り金目の物はひとつもない。おそらく、生前の寛太さんのお母さんは、すべてを売り払って息子の借金の返済にあてたのかもしれない。そして最後はこの家で……そう思ったら、紗綾の胸がじくりと傷みだした。

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