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 紗綾は涼平が飛び込んでいった杉林を不思議そうにずっと眺めていた。しばらくたつと、善三にさっきの涼平の姿を見たかどうかを聞いてみた。


「いや、ワシは何も見えへんかったけどな。せやけど、さすがに尻尾とか耳は生えてこえへんのんとちゃう」


「いや、あれは間違いなく…」


 途中まで言いかけると、なんだか自信が無くなった。


(やっぱり私の目の錯覚だったかも。まさか、人間に猫耳とか尻尾が生えてくる訳がないしな)


 紗綾は具合の悪そうな涼平を心配しつつアンナ達のいる場所へと戻ろうとする。途中、どうしても涼平の言うことを確かめたくなり、草刈り作業をしている老人に聞いてみたくなった。


「あのー!」


──ウィーン、バリバリ、キーン、バリバリ──


 エンジン音と草を刈り取る音で紗綾の声はかき消され老人には届かない。そこへ善三が、老人の目につくところまで歩いて行き手を大きく動かした。それを目の端でとらえた老人はエンジンを切り善三に顔を向けた。


「どうしたんや?」


 すると、老人の後ろから紗綾の声がする。


「あの、すいません、あとひとつだけ聞きたいことがあって。あっちの方角に開けた場所ってありますか?」


 老人は紗綾の方へ振り返った。そして、紗綾はついさっき涼平が示した方角を指さした。


「あーぁ、あの辺は鶴ヶ丘カントリーがある場所や。もう数年前に潰れたけどな」


「えっ、鶴ヶ丘カントリーって?」


「ゴルフ場じゃよ」


 ビンゴだった。見たことも、ここへ来たこともなかった涼平の言うことが当たっていた。驚いた紗綾と善三はそれを聞き顔を見合わせた。


「ちなみに、そのゴルフ場って誰が所有してるかわかります?」


 興味本意で善三が尋ねた。


「さあ~、所有者か……それは知らんけど、確かこの前まで競売にかけられとったって聞いたな。けんど、誰も買い手がつかへんかったみたいや」

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