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他方、タクが運転する車の中では、惠介がなぜか浮かない表情を浮かべていた。
そのような顔を見たタクな惠介に話しかけた。
「なんや惠介、嬉しないか?」
「いえいえ、あいつを見つけてくれたんは嬉しいんっすけど、ちょっと心配してることがあって」
「ん、どんなことや?」
「いやね、盗まれたあいつのパソコンとスマホをフリマで出品する奴が現れたんですよね?」
「そうや」
「実は、俺、あの当たりくじを手切れ金代りに、あいつにやるって電話で言うてしもうたんですわ。それを、録音されてて。だから、そのパソコンかスマホに録音データが残ってたらどうしようかと思って…」
「なんやて!? そらあかんやろ。えっ! マジでか!!」
「だって、引ったくられたって聞いて、もう出てけーへんやろって安心しとったんですわ」
「あかん、なんや頭がクラクラしてきたわ。えっと、ちょっと待てよ……冷静に考えたら、盗品やから出品するやつは買い手に渡す前に、足がつかんようにするばすや。せやからパソコンとかスマホなんかの電子機器は全部初期化してるから何も問題ないんとちゃうか?」
「まあ、それならええんですけど。でも、もしものことがあるでしょ? 前にどっかで聞いたんですけど完全に削除したデータも再び呼び起こせるって…なんか復元ソフトもあるみたいですし」
「そうや、それは俺も耳にしたことがある。──これは、いっこ間違えたら、どえらいことになるで」
「はあぁ、やっぱそうですよね」
うすうす惠介もわかっていた、ヤクザのやり口を。二人は今回頼んだヤクザへ支払う報酬が瞬時に頭をよぎった。
「俺ははじめ、おまえの元カノが当たりくじを換金したとしても、民事で訴訟を起こしたら最低でもお前に半分が入ると思ってたんや。そやから、銀龍会の奴等にも頼んだんや。でも、もしも銀龍会にそれなりの謝礼金を支払わへんかったらえらいことになるで」
というのも、紗綾が録音データを手に入れれば惠介の当たりくじの権利は完全に消滅する。それでいて、銀龍会への報酬がいくら成功報酬とはいえ、これだけもの人数を動員してくれた銀龍会にはお礼として、それ相当の金を支払わなければならなかった。
「タクさん、もし録音データがあいつの手に渡ったら、俺、どうしたらいいですかね?」
臆病風に吹かれた惠介は、弱々しい口調でタクに問いかけた。
「もうこうなったら、俺も乗りかかった船や。何がなんでパソコンとか当たりくじを回収するしかないな。なんやったらおまえの元カノと一緒におったオッサン共々、埋めてまうか」
オッサンとは八坂警察署に紗綾と一緒に来た善三のこと。タクの知り合いの刑事である石倉から情報を得ていたようだ。だがこのとき、タクと惠介は、タクシーで待っていた他のメンバーのことは知る由もなかった。
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