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 ここは南丹市の八木町、桂川の上流にもあたる場所だ。桜の花が咲き乱れている河川敷。そこにお弁当とお茶を持ってきた紗綾達は、来る途中ホームセンターで購入してきた特大のブルーシートを広げた。


「なかなかいい場所ね~。景色も抜群じゃないの。さあ、早速だけど、いただきましょうか」


 アンナの号令と共に皆が一斉に、上品な薄紅色の風呂敷を手解き、お弁当の蓋を開けた。とたん、桜の花びら同様いくつもの頬っぺがこぼれ落ちそうになっている。

 

 優美で繊細そうな料理に目を奪われたアンナ達は、満面の笑顔で箸を割る。


 扇形にかたどられた赤飯や季節に沿った旬の食材。筍や山菜の天ぷら、それにぷりぷりのエビやしっとりやわらかいカモロース。刺身も素材の味をそのままに、お弁当なのに鮮度を保ち乾燥しない工夫がなされている。その上、だしが口内に広がる厚焼き玉子は料亭ならではの味わい。その他にも色とりどりの料理が詰め込まれ、どれもこれもが見た目も良く、食べるのがもったいないと思わせるほど。デザートは、上質な餡が入った小餅と抹茶のわらび餅が串に刺さっている。一つ一つ丁寧に作られた料理で味わいも絶品。まさに、洗練された京の懐石料理だ。


「こりゃ最高やな。紗綾ちゃん、ありがとな」


 顔を(ほころ)ばせた善三が紗綾に感謝の意を込め頭を下げた。


「いえいえ、みなさんのおかげでここまでこれましたし。ほんとは、もっとちゃんとしたお礼をしなきゃいけないのに…今はこれで許してくださいね」


「そんなんええから紗綾ちゃんも早よ食べって。──でも、よー考えたら、6時までまだまだ時間があるよな」


 善三がふと思ったことを口に出す。それに答えたのは涼平だった。


「そうやな、あと4、5時間はあるしな。せや、この前、寛太さんが言うてた実家ってこの辺りやったんとちゃうかな。アンナちゃん、一回、電話で寛太さんに聞いてみてくれへん?」


「いいわよ。でも食べ終わってからね。今はゆっくりと味わう時間を楽しみたいの」


「でも涼平君、あそこはボロボロだって寛太さんが言ってたわよ。だから、行ってもしょうがないんじゃないの?」


 赤飯を口に頬張ったままの紗綾は、涼平が寛太の実家に興味をもつ意味が理解できなかった。


「いや、そこには行った方がええような気がするんや」

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