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16

 紗綾は泣きじゃくりながら善三の胸にも顔を寄せた。善三も子供をあやすように「よし、よし」と言って、紗綾の背中をポンポンと叩きだす。


「じゃあ、このまま大阪に戻って、みずお銀行に直行しよかっ!」


 頬を(ほころ)ばせた高槻が、元気よくそう言うとエンジンをかけた。みなの目にも希望が浮かび上がった。だが、そのときだった。腰を折るようにアンナが口をだした。


「ゴリのオジさん、ちょっと待って!」


「なんやアンナちゃん、トイレかいな?」


「違うわよー」


 すかさず高槻に返答したアンナは、後ろを振り向き紗綾にスマホの画面を見せた。


「ねぇ、ねぇ、紗綾ちゃん、さっき話してた引ったくりのことだけど、紗綾ちゃんが盗まれた財布とかスマホってこれのことかしら? 確かピンクのオリーバーチの財布にギャラクシカルの機種って言ってたわよね」


 善三の腕のなかでアンナの声を聞いた紗綾は、はっと我に返った。そのとたん、涙を拭いながらアンナのスマホを凝視する。


「えっ! すごい! どうやって見つけたんですか?」


「そんなの簡単よ。盗んだ物は質屋とかに持っていったらすぐに足がつくから、大抵の盗人は形振(なりふ)りかまわずフリマなんかに出品して、さっさと売りさばくのが決まりなのよ。だからさっき待っている間に、手当たり次第にフリマアプリを見て回ってたの」


「えっ、じゃあ私のスマホとかは今、売りに出されてるってことですか!?」


「そうみたいね」


「ちょっとアンナさん、よく見せもらってもいいですか?」


「いいわよ、はいどうぞ」


 しばらく眉間にシワをよせてスマホを見入る紗綾は、突如、驚きとともに声を張り上げた。


「あった! ありました!! 私のノートパソコンも! この隅っこの小さなキズがなによりの証拠です。──あぁ~この出品者が犯人だったんですね!」


 出品されているノートパソコンの画面を親指と人差し指で拡大した時、紗綾は確信する。


「じゃあ、すぐに落札しないと!」


 すぐさまアンナが助言する。


「そ、そうですね。このまま、アンナさんのスマホで落としても大丈夫ですか?」


「なんでもいいから早くしなさい!」

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