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紗綾は泣きじゃくりながら善三の胸にも顔を寄せた。善三も子供をあやすように「よし、よし」と言って、紗綾の背中をポンポンと叩きだす。
「じゃあ、このまま大阪に戻って、みずお銀行に直行しよかっ!」
頬を綻ばせた高槻が、元気よくそう言うとエンジンをかけた。みなの目にも希望が浮かび上がった。だが、そのときだった。腰を折るようにアンナが口をだした。
「ゴリのオジさん、ちょっと待って!」
「なんやアンナちゃん、トイレかいな?」
「違うわよー」
すかさず高槻に返答したアンナは、後ろを振り向き紗綾にスマホの画面を見せた。
「ねぇ、ねぇ、紗綾ちゃん、さっき話してた引ったくりのことだけど、紗綾ちゃんが盗まれた財布とかスマホってこれのことかしら? 確かピンクのオリーバーチの財布にギャラクシカルの機種って言ってたわよね」
善三の腕のなかでアンナの声を聞いた紗綾は、はっと我に返った。そのとたん、涙を拭いながらアンナのスマホを凝視する。
「えっ! すごい! どうやって見つけたんですか?」
「そんなの簡単よ。盗んだ物は質屋とかに持っていったらすぐに足がつくから、大抵の盗人は形振りかまわずフリマなんかに出品して、さっさと売りさばくのが決まりなのよ。だからさっき待っている間に、手当たり次第にフリマアプリを見て回ってたの」
「えっ、じゃあ私のスマホとかは今、売りに出されてるってことですか!?」
「そうみたいね」
「ちょっとアンナさん、よく見せもらってもいいですか?」
「いいわよ、はいどうぞ」
しばらく眉間にシワをよせてスマホを見入る紗綾は、突如、驚きとともに声を張り上げた。
「あった! ありました!! 私のノートパソコンも! この隅っこの小さなキズがなによりの証拠です。──あぁ~この出品者が犯人だったんですね!」
出品されているノートパソコンの画面を親指と人差し指で拡大した時、紗綾は確信する。
「じゃあ、すぐに落札しないと!」
すぐさまアンナが助言する。
「そ、そうですね。このまま、アンナさんのスマホで落としても大丈夫ですか?」
「なんでもいいから早くしなさい!」
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