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「……だいちゃん!?」
「そう、大輔や! いや~久しぶり~紗綾、中学卒業して以来やもんな……でもなんで男の格好なんかしてるん? ──あっもしかして、今、騒がれてるLGBTとかいうやつ?」
「いや、そんなんとちゃうんよ。これにはちょっと訳があって…でも、だいちゃんこそ、店長だなんて立派になったね。それに比べて私は……」
「そんなええもんとちゃうって。前に、親父がスーパーしてるって言うたやろ。それがここのスーパーやねん」
「でもここのスーパーってあちこちにあるわよね」
「まあな、でも店長とは名ばかりで、今は修行中の身で、この店の売り上げを伸ばすように言われてるんや。けどな、うちみたいな中堅スーパーなんか、他の同じぐらいの規模のスーパーと一緒に商品を仕入れへんかったら、やっていけへんねんで。そうやって大量に発注して安く仕入れな大手のスーパーに負けてしまうんや。やっぱ安くせな売れへし、今の消費者はほんまシビアやからな。──あっそうそう、そんなパンなんか、この前もオーブンの調子がわるぅーて、焦がしてしもうて全部、破棄したんやで。せやから、1個ぐらいどうってことあらへん、気にせんでええで。それより紗綾、お金に困ってるんやったら、なんぼか貸そか? それにうちの店でもパートさん募集してるしな」
と、言ってから大輔は紗綾が書いた紙を破って丸め、ゴミ箱に放り込んだ。
「そうなの…でも、こんなことしてごめんなさい」
「だから気にすんなって、それより紗綾の親父さんって、亡くなったんやなかったっけ? ──あっ、ゴメン…」
「うんうん大丈夫、この人は知り合いのおじさんなんよ、騙してゴメン……ちょっと色々、相談してもーてたら一緒に謝ってくれるって言ってくれて。──善三さん、すいません心配かけて」
紗綾は善三に目をやり頭を下げた。
「なんや、そうやったんやな。でも紗綾は昔からオヤジにモテモテやったもんな。はっはは……けど紗綾、大手の橋爪リサーチって調査会社で働いてたんとちゃうんか?」
「えっ! なんで大ちゃん、そんなこと知ってんの?」
「うん、ちょっと風の噂で耳にしたことがあってな」
「そうなのね、でも、その会社は去年に辞めたんよ」
このとき、この会話を聞いた善三がいぶかしげな顔つきにかわり、なにやら考え込んだ。
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