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 店に入ると、善三は真っ直ぐサービスカウンターに向かった。そして、まず丁寧に突然の訪問を詫び、そのうえでここに来た目的を話した。


「では、店長を呼んで参りますので、しばらくお待ちください」


 待つこと数分。現れたのは20代後半の青年だった。


「どうも、店長の速水(はやみ)です。ここではなんですので事務所の方まで来てもらえますか?」


「はい、この度は大変、申し訳ありませんでした」


 善三が謝ると続いて紗綾も頭を下げた。


「じゃあ、こっちへ」


 冷淡に答えた若い店長はスタスタと事務所の方へ歩いていく。その後をついていく善三と紗綾。野菜や青果が積み上げられたたくさんの箱を横目に奥へと進んでいく。様々な物が置かれた陳列棚が並ぶ明るい店舗とは異なり薄暗い通りだった。


 事務所へ入るなり突然、善三が膝を折って土下座をする。


「ほんとうにこの度は申し訳ありませんでした。出来心とはいえ、娘にもキツく叱ったしだいでして……ほら、おまえも頭下げんかっ!」


 打ち合わせ通り紗綾も横で平身低頭しだす。


「あっ、そういうのはいいんで、ここに娘さんの住所と名前を書いてもらえますか? えっ! 娘??」


 店長の速水は紗綾の男装姿を見て戸惑った。


「あっ、ちょっとこれには色々と訳がありまして……それで今日は無理やりつれてきたもんで。あまり時間がなかったと申しますか……娘は正真正銘の女なんです」


 その(のち)、紗綾がペンをとり住所と名前を書き始めた。その名前を見た速水は再び戸惑いを隠せなかった。そして、紗綾に訊ねだす。


「二条紗綾って、もしかして紗綾(さあや)!?」


「えっ!?」


 このとき、初めて顔を上げた紗綾は、店長である速水の顔をまじまじと見つめた。とたん、紗綾の大きな目がさらに大きく開いた。

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