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「そっか、管理会社に連絡をとりづらいのね。私も昔、そんなことがあったわ」
アンナがそう言うと、窓側に座っていた涼平が口を挟んだ。
「それなら、俺が取ってきてやる。紗綾、その当たりくじとやらは、どこにあるんや?」
「えっ、涼平君、私の言ったこと、ちゃんと聞いてた? 鍵がないのよ」
「大丈夫。俺やったらなんとか入れるから」
(よくわからないが、涼平君ならなんとかしてくれそう。それに、およねさん曰く猫に小判らしいし)
そう思った紗綾は、涼平の耳元に顔を近づけ秘密の隠し場所を小声で教えた。
「合点承知! まかしとけ!」
「でも、くれぐれも無茶はしないでね」
話はまとまった。人並み外れた身体能力の持ち主の涼平が当たりくじを取りに行くことになった。
まもなくして、紗綾のマンションが見えてきた。
「高槻さん、あの正面に見えてきた茶色いマンションです」
「オッケー! じゃあ、近くまで行ったら、あやしまれるから、そこにあるスーパーの駐車場で待機しとこうか?」
「あ、は、はい、そ、うですね」
なぜか歯切れの悪い返事だった。というのも、高槻が車を停めようとしている場所は紗綾が万引きをしたスーパーの駐車場だったからだ。
そんな紗綾の物言いに違和感を感じた善三が紗綾の顔色を伺った。
(やっぱりなんか紗綾ちゃんの様子がおかしい)
「なあ、紗綾ちゃんどうした? またなんか嫌なことでも思い出してもうたか?」
「……はい、もう皆さんには恥ずかしいこともなにもないんで、胸につかえていることをすべて話します。──実は昨日、かなりお腹が空いていて3日間、まともなものを食べてなかったんです。で、このスーパーのパン売り場でパンをひとつだけ万引きしてしまったんです。それを、元彼氏に見られてしまって、脅しの道具に使われてしまったんです。それに、前に私が仕事をしていたときの不正をネタに強要されて……」
その後も不正の内容や当選金額の内から5億円を元彼氏に支払う誓約書を書かされたことも、すべて包み隠さず喋った。
「ほんませやけど、ろくでもない男やな!」
すべてを聞き終えると、善三の怒りが込み上げた。他のメンバーもひしひしと顔に怒りが滲み出す。けれど、涼平だけは涼しい顔で正面にあるマンションを眺めている。おそらく、集中していのだろう。そんな涼平は何も聞いていなかったように、たんたんと自分の役目を果たそうとする。
「じゃあ、俺は行ってくるぜ。紗綾、505号室で間違いないんやな。それとオートロックの暗証番号は2758でええんやな?」
「うんそう、ほんとうに無理はしないでね」
「ああ」と頷いた涼平は車から降りると、ゆっくりとマンションの方へと歩きだした。
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