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「アンナちゃん、今からワシが紗綾ちゃんに言うこと、勘違いせんと聞いてほしいねんけど、かまへん?」
「いいわよ、急にどうしたの?」
「いやな、昨日、娘と会うて、このままじゃあかんって考えてたんや。あのな、紗綾ちゃん、嫌なら嫌ではっきり言うて欲しいんやけど……このワシを雇ってくれへんか?」
突然のことで、とまどう紗綾。でも、善三の言う通り嫌なら嫌で断ればいい。人の良さそうな善三に好感をもっていた紗綾。善三が一体、どうしてほしいのか具体的に聞いてみたくなった。
「え? 善三さん、雇うってどういうことですか?」
「そうやなー、例えば紗綾ちゃんがこれから何らかの事業をするとしたら、ワシが今までの経験を生かしてアドバイスとか、他、雑用でもなんでするし雇って欲しいんや。ワシは知ってのとおり、今、住所も無ければ電話もない。せやからいうて娘の世話になりたくないんや。なんとか、娘にこれ以上、迷惑かけんとホームレスから抜け出したいんや! ──あっ、ごめん、勝手ことばっかりワシ言うてるな」
「いえ~そんなことないですよ。でも、善三さんとアンナさんに一つだけ言っときたいんですけど、当たりくじを換金できるか、まだ全然わからないので、今ははっきりしたことは言えないですよ」
至極もっともなことを言った紗綾に善三とアンナはコクコクと首を縦に振り得心したよう。
「そっか。そうやな、まずそれやわな。よっしゃ! なにがなんでも悪い奴らから紗綾ちゃんと当たりくじを守るぞ!」と、気合いを入れた善三に続きアンナもしゃべりだす。
「さっきは私もせっかちなことを言ってごめんなさいね、紗綾ちゃん。換金の件は私たちにまかして頂戴! なにがなんでも換金させてあげるからね」
すると、どこからともなく煮干しをくわえた涼平が足音も立てずに、そよ風のように現れた。
「あらっ! 涼平君、帰ってたんだ。全然、気づかなかった」
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