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すべての料理が出揃った。テーブルの上に並べられた豪華な朝御飯。アンナが元気よく「いただきま~す」と言うと、紗綾と善三も手を合わせ、フォークと箸を手にした。
前々から、紗綾はこんな生活に憧れいた。化粧をしなくても気兼ねなく好きな時間に食事がとれる。至れり尽くせりの快適なホテル生活。もしも、当たりくじが換金できたら、真剣にホテル住まいも考えてもいいかな。そんなことをもぐもぐと口を動かしながら考えていたとき、紗綾の隣に座っていたアンナがいきなりフォークとナイフをテーブルの上に置く。そうして、どこか改まって神妙な面持ちをし重々しく口を開いた。
「あのね紗綾ちゃん、私には夢があるの」
このとき紗綾は直感した。ついに始まったかと。おそらく借り入れの申し出だろう。
(昨日、およねさんが、言い聞かしとくって言ってたんだけどな…)
「どうしたんですかアンナさん、いきなり?」
「うん。実はね私、前々からドラッグクィーンのショーが開けるバーをやりたいと思ってたのよ。どう? 紗綾ちゃんも興味ある?」
「えっ? ちょっとわからないです。そもそもドラッグクィーンってどういう意味なんですか?」
「Dragは引っ張るでしょ、 Queenはそのままね。その意味はね、女装した男性のドレスの裾が床に引きずられるようだったから付いた表現らしいわよ」
「へ~そうなんですか。アンナさんは夢があっていいですね。応援しています」
「ほんと! ありがと。でね、お店を構えるのにはだいたい……」
アンナがそこまで言いかけたとたん、善三がアンナの言葉を遮るように割って入った。
「アンナちゃん、それはあかんって! およねさんからもキツー、釘刺されとるやろ。無理強いしたらあかんって」
「オホホホ、そうでしたわ。ついつい話してしまいました。オホホホ、善三さん、おかあさんには言わないでよ」
「わかったからアンナちゃん、はよー飯、食えって」
「あの~それより、涼平君、遅いですね。何かあったのかな?」
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