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「でも、その《《たられば》》が、すごく《《ため》》になるんですよー」


「ん? どういうことかしら?」


「だって、こうしてたらこんなことにならなかったって聞いたら、私はそうしないでおこうって思うじゃないですか。だから、皆さんの話が道路標識みたいに思えて…」


「え? 道路標識ってなんや?」


 善三が小首をひねった。


「だってそうじゃないですか。こっちに行ったら崖崩れがありますよとか、鹿や猪の飛び出しに注意とか、熊とか狸の注意もありましたっけ? それに行き止まりとか、一方通行の標識とかみたいに思えて……それを皆さんは、知ってか知らずか何の注意もしないで突っ込んでいってしまって失敗した訳でしょ。それなら、私はそれに気をつけとけば失敗は少なくてすむかなって思ったんです…あっ! いや、なんか偉そうなこといってスイマセン……」


「かまへんかまへん。あぁ、そういうことな。紗綾ちゃんも上手いこと例えるな。そうや、ワシらの失敗した話を聞いて今後の道標(みちしるべ)にするっちゅうんは賢いわ。せやな、近道よりも遠回りした方が上手いこといくこともあるしな。ワシらみたいに道を間違えたり、踏み外したりせんかったら確かに失敗は少ないかもしれん。──紗綾ちゃん、若いのになかなか見所があるな」


「ヘッヘヘ、それほどでも~」と言って照れ笑いする紗綾を横目に善三が話を続けた。


「でもな、人生なんて博打(ばくち)となんもかわれへんねんで。敗けてる奴らを見て冷静に考えたら自分も勝たれへんってわかってるのに、何の根拠もなしに自分だけは絶体に勝てるって意気込んでいくんやって」


「なるほど、やっぱ人間って、あってるか間違ってるかなんて考えないで、その時やりたいことを優先するっていうことですかね? 恋愛にも恋は盲目って言葉がありますもんね」


「そうや、その通りや! あかんって薄々わかっている時でも突っ込んでいってしまうんや。──紗綾ちゃん、ほんま、あんた大物になれそうやな。さすが億万長者さんや」


 大いに感心する善三。だが、繰り返される億万長者という響きに、紗綾は自分の抱えている問題を思いだし不安を(つの)らせるばかりだった。

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