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「すまんな、紗綾ちゃん。おっちゃんらのブサイクなとこ見せて」
少し落ち着きを取り戻した善三が、顔を上げ、ぼそぼそとしゃべった。
「ちょっと、善三さん、おっちゃんらって! ムカつくんですけど~」
ついさっきまで泣いて喜んでいたアンナ。『おっちゃん』というカテゴリーに入れられ、いきなり真顔に戻った。アンナには、おっさん、おっちゃん、おじさんという響きは、耐え難いキラーワードなのだ。
「あっ、こりゃアンナちゃん、すまん、すまん、前言撤回、おねぇさんやったな…ハッハハ」
笑って誤魔化す善三。アンナもすぐに水に流し緩んだ頬をそのままにした。が、「ブサイクなとこ見せて」と善三が言ったことに、紗綾が反応する。
「ブサイクだなんて、そんなそんな……善三さんもアンナさんも、なんか中年の色気みたいなのがあって、とってもカッコいいですよ」
場の雰囲気をより和らげようとする紗綾。それを聞き善三もアンナもご満悦な様子。
「そうかい、紗綾ちゃんに言われたらなんか照れるな…ハッハハ」
「そうね~、中年は余計だけど、色気があるって言われるのは悪い気はしないわね~」
「それに、昨日も貴重な人生経験を聞かせてもらって、ものすごい勉強になりましたし」
「あぁ~昨日のことな。ほんま、紗綾ちゃんから見たら、ワシら色々あり過ぎやわな。でもみんな情けないかな、《《たられば》》ばっかりやったやろ? まあ、ニラレバやったら食えるけど、たらればは食えへんわな。ハッハハ」
「善三さん、それは親父ギャグだって。──でもそうよね~、ああして《《たら》》良かったとか、こうす《《れば》》こんなことになってなかったとかよね~。今さら言ってもしょうがないのにね~」
そう言って、目を丸くして首を傾げたアンナは手を広げ肩をすくめた。後の祭りなのに、未練たらしい昨夜の会話に嘆かわしさを感じたようだ。
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