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このとき、ソファーに座っていた紗綾は、朝っぱらから部屋の入り口の前でオッサン達が泣き崩れている理由がよくわからなかった。
さっぱり理由がわからない紗綾は、善三とアンナの元へ駆け寄った。
紗綾の気配に気づいたアンナ。でも、もう少しだけこの感動に浸っていたかったようだ。苦労してきたからこそ人の情を心に染み込ませれる。幸多い人生とは言えなかったアンナは、今まであまり味わえなかった喜びを心ゆくまで噛みしめていたかった。
それからしばらくした後、善三に寄り添ったままのアンナは、おもむろに紗綾に手紙を渡した。
その手紙を読み終えた紗綾は、ようやく呑み込めた。
(ああ、自分だけじゃない。この人達も色々と苦労が絶えない人生だったんだ。ほんと、人の人生なんて、ほんのちょっとしたことで歯車が狂ってしまうんだな…)
そうしみじみと実感した紗綾。昨夜、すき焼き鍋を囲みながら、みんなからテント生活するまでの経緯を聞かせてもらった。小さな幸せを願っていた幸治の嫁の真理子にしろ、うんと大きな野心を抱いていた寛太にしろ、誰も彼もが壮絶な人生だった。それを自分の人生と照らし合わした紗綾。これからは人の振りをみて我が身を直した方が良いような気がした。
今までは、成功談を話す著名人の講演会にもよく参加する機会があった。そんな本も読んだこともある。けれど、どこか着色したような話よりも、目の前のリアルな失敗談の方が役に立つのではないか。
少なくとも人生において、その方がためになる宝にもなると、善三やアンナ達を見て心からそう思えた。
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