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およねの入れ智慧

「コンレットベルヴューホテル、このホテルを買い取れへんか?」


 およねが、何を言っているのさっぱりわからなかった。まったく、理解できない紗綾はもう一度聞き返す。


「すいません、もう一回、言うてもらえないですか?」


「ほんまに呑み込みの悪い子やな。じゃあ、もう一回だけ言うぞ。このホテルを買いとる気はないかって言うたんや」


「えっーー!! ちょっ、およねさん、なにを急に言うんですか? ホテルを買いとるって、そんなこと私にできる訳ないじゃないですか!」


 やれやれと、およねは浅い溜め息をもらすと同時に質問を投げかけた。


「あのな紗綾、高額当選したあと、なんで破産してる奴が後をたたへんか知ってるか?」


「ちょっと、いくらおよねさんでも、人前でその話しは……」


 紗綾は、隣に立っている涼平をちらっと見るやいなや、およねの方を向き直し顔をしかめた。大金を見ると豹変する人が多いのは言うまでもない。だから、絶対に当選したことを誰にも知られたくなかった。いくら自分を助けてくれたとはいえ、金の力は恐ろしい。そのことだけは、とことん身に染みて感じていた。


「心配すんな、涼平は大丈夫や。猫に小判やからの、フォホホホ」


「へっ? 猫に小判??」


「あ、いや、こいつは金には、全然(じぇんじぇん)興味がないって言いたかったんや。で、なんで墜ちる奴が多いか知ってるか?」


「それは、やっぱり気が大きくなって身の(たけ)に合わない生活をしてしまうからだと思いますが……」


「まあ、それも間違いやないやろ。でもな、一文無しになって堕ちていくゆうんは、大半の当選者が当たった時点で財運を使い果たしてしもうたからなんやで」


「そうなんですか…じゃあ私も運を使い果たしてしまったんでしょうか?」


「そういうことや。──じゃが、それを回避する方法がある」


「………」


 前のめりになった紗綾。およねの言葉を一言一句、聞き逃さないでおこうとする。その姿勢は、ああだここだ言いながらも、およねの言うことを心底、信じているようだった。


「それはな、私利私欲のためやなしに他者のために、その金を使うことや」


 初耳だった。紗綾も色々と当選後の心得を調べはしたが、運の問題を書いている記事はどこにもなかった。

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