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「そうや、おまえの血液型ってABやってな。おかんも言うとったわ! AでもなしBでもなし血液型まで中途半端やったって」


「………」


「それに、酉年やってな。中途半端にしか飛べへん、(にわとり)なんやろ! ほんま、すべてにおいて中途半端なやっちゃ。なあ、おっさん!?」


「いや、血液型と干支は関係ないと思うんやけど……それより、もう少しお父さんを(いたわ)るとか応援する言葉をかけてくれても……」


「黙れ!」


 罵倒を繰り返す香織は、自分が発する言葉に歯止めをかけられなかった。すると、怒りが頂点に達したのか、いきなり善三の頭をパンプスで踏みつけた。


「おい、クソ親父! 髪の毛も中途半端に生やしやがって。ハゲやったらハゲでハゲ化に(あらが)わんと全部、剃ってまえや。ほんま、頭まで中途半端やの! あっそうや、そんなに言うんやったら応援したるわ。私がこの頭に、髪の毛がぎょーさん生えるよう、もっと励ましたるわ」


 香織がそう言うと、パンプスでグリグリと善三の頭を踏みにじる。と、残り少ない髪の毛がパラパラと抜け落ちた。だが善三は絨毯におでこをこすりつけたまま抵抗しようともせず、苦言を口にするだけだった。


「ちょっ、香織ちゃん……それは励ましてるんとちゃう。ハゲの部分を()してるって言うんとちゃうか?」


「はぁぁ~!? こんな時に、なにを上手いこと言うとんねん! このクソ親父がっ !!」


 一段と靴の底に力を込める香織。やがて、自分の足に疲れが生じると踏むのを止め捨て台詞(ぜりふ)を吐いて通帳をぶつけた。


「アホ! クソ親父のアホ! 中途半端のアホ! マジでおまえは、ろくでなしのクソ親父や!」


 そして、香織はその場から逃げるようにして出て行った。


 この時、善三は頭皮に一滴の(しずく)がこぼれ落ちたのを感じ取っていた。

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