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「すまない。香織は先に出といてくれ」
何を思ったのか、善三が娘の香織につぶやいた。
「はい、じゃあ廊下で待っています」
ドアが閉まる音がすると、善三が小声でおよねに詰めよった。
「およねさん、娘に会わせるなら会わせるで、なんで前もって言うといてくれへんかったんですか。なんも、今のわしの姿を見せることはないでしょうに。今、会うたら娘を困らせるだけですわ」
「あほ! おまえさんは、このままずっとホームレスを続けるつもりか? 無気力症候群かなんか知らんけど、いつまでもうじうじしおってからに。今回はちょうどええ機会じゃ。娘にありのままの姿を見てもらえ。香織ちゃんは、おまえが思うほど薄情な奴やない。でもな、くれぐれも覚悟するんやで。──さあ早くいくんじゃ。クッククク」
なにか面白そうなことが起こるのを先読みしたのだろうか。およねは、にやつきながら犬を追い払うようにシッシッと手首を動かした。
しぶしぶ出て行った善三は、娘と一緒に別の部屋へ向かった。
「まさる、無理を聞いてくれて、あんがとよ。この礼はまたするからの」
およねが総支配人に目をやった。
「そんなそんな、礼なんて…それ以上のことをもう十分にしてもらってますし」
総支配人のまさるは恐縮し、くねくねしながら、およねにすり寄った。
「だから、暑苦しいって。もう少し離れんかい!」
「だって、僕ちん、寂しかったんだもん」
いきなり甘え口調になった総支配人。もういい年をしたおっさんなのだけれど、およねに母親の面影を感じているようだった。
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