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もう一度、頭を下げた善三。けれど、およねは香織の態度に違和感を覚え、問いを投げかけた。
「こんな場合、大抵の嫁は別れた夫のことをロクデナシやった言うて子供に教えとるんやが…香織ちゃんの母親もそうやったか?」
「……はい、まあ、だいたいそんな感じでした」
「やはりの。でものぉ、この善三は結果的に家族を捨てたかもしれへんがロクデナシなんかやあらへんで。いろいろと子細があってのことやったんや」
「はあ…そうなんですね……」
踏み込んだことを、ずけずけと話すおよねに香織は戸惑いを覚えた。
「ふむ、よし! 善三、今から親子水入らずで話せ。ただし覚悟するんやで」
「でも私はまだ仕事が……」
香織の言葉が耳に入らないのか、およねは、おかまいなしでフロントに電話をかけた。
数分後、何者かが慌てて部屋に飛び込んできた。香織もよく知っている人物だ。
「えっ!? 総支配人! どうかされましたか?」
「いやいやいやいやぁ~、別にたいしたことやない。ちょっと、この方に呼ばれてな。──もぉ~う! およねさん、どうしてもっと早く呼んでくれないんですかぁ~! ああぁー会いたかったです~」
突如現れた総支配人は、およねに近づき片方だけ膝を折って目線を合わせた。あたかも求婚するポーズ。それに加え総支配人であるにも関わらず、その振る舞いが飼い主を見つけた仔犬みたいに舌をだし尻尾を振っているようだった。
「おまえは相変わらず暑苦しいやっちゃの。なんでもええけど、香織ちゃんにちょっとの間、休憩を与えたってくれへんか。今から親子水入らずで込み入った話をさすよって。それと、わしの払いで1部屋用意してやってくれんかの」
「わかりました。およねさんの頼みなら喜んで。──じゃあ芹澤さん、例の部屋を使って。それで、およねさん。およねさんからは料金を受け取れませんからね」
「ふっ、昔から義理堅いやっちゃ。まあええ、今回は借りとく。──善三、今晩はその部屋に泊まっていったらええわ。あっそうそう、チェックアウトの時間は娘から聞いてや。それと勝手にルームサービスは頼んだらあかんで」
「わかりました。今日は甘えさせてもらいます」
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