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8.

「あ~この部屋はな、ここのホテルのオーナーが用意してくれたんや。さっきまで、そのオーナーと《《みずお》》銀行のお偉いさんと一緒に飯を食ってたんや。せやからなんも遠慮せんでええ」


「んっ!? ここのホテルのオーナーって日本人じゃないわな? それに、みずお銀行のえらいさんって……? およねさん、あんた一体……」


 驚きのあまり善三が、目をかっぴらいた。さっきまで車のなかでは、うとうとと眠たそうにしていたのに、およねの幅広い人脈を知るやいなや動揺が隠せなかったようだ。


「まあ善三、あまり野暮なことを聞かんでくれ。それより、今日ここにおまえたちを呼んだのには子細(しさい)があるんや」


 ふむっと踏ん切りをつけたように頷いたおよねは、アンナたちに視線を向けた。


「すまんがアンナバネッサと紗綾、涼平、ちょっとの間、隣の部屋にいといてくれへんか。わしはこれから善三と込み入った話をせなあかんのじゃ。──今日はひとつひとつ解決せなあかん問題が多くての」


「はい。わかりましたわ、あかあさん」


 アンナに続き紗綾と涼平は、スタスタと外の夜景に目を奪われながら移動する。3人は自然と外の景色に視線を落とした。眼下に広がるいくつもの灯火(ともしび)光害(ひかりがい)で見えない満天の星空が地上に写し出されているよう。幹線道路を走る無数の車のライトも、天の川がゆっくりと流れているように見える。


 思わず紗綾が深いため息をはいた。「はぁ~、こんなところにずっと住めたらいいのになあ」と、紗綾の心の声が口からため息と共に漏れてきた。ひそかに憧れを抱いていたホテルのスウィートルーム。当たりくじを換金したら、絶対にホテル住まいをしてみたかったのだ。

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