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晴れない気分だったが、皆に悟られぬように明るくとりつくった表情を見せた。だが、やはり、これからどうしようかという思いが態度に滲み出ていた。すぐに心を表に出してしまうのは時と場合によってはマイナスに作用することもあるのだけれども、逆にそれが彼女の正直さだともいえた。
明らかに困惑しているアンナの様子を見て、料理人でもある寛太が心配そうに口を動かす。
「アンナちゃん、さっきの電話、家主からやったんやろ?」
その言葉を聞くなり、アンナの目が一瞬だけぎょっ大きく見開いた。そして、長くて大きなつけ睫毛をしばたたかせると、小さく頷いた。
「やっぱりそっか、出ていけって言われたんやな。それで、いつまであそこにおれるんや?」
「今月いっぱい…」
どでかい体とは裏腹に蚊の鳴くような声で返事するアンナ。
「じゃあ、およねさんもかい?」
深刻そうな面持ちをした幸司もアンナに問いかけた。
「それは、わからないわ」
「そっか、でももしそうやったら、なんとかせなあかんな。──善三か寛太、なんかええ考えないんかいの?」
「……まあ、わしらも家なき子やしの。新しい小屋、作るしかあらへんがな」
寛太が即座に返答すると、善三が他のアイディアを模索しようとする。
「段ポールでか……それは、ちょっとおよねさんにはキツイやろ~な。あの年で季節を味あわせたら可哀想やで。それにわしら全員いつまで公園におれるかもわかれへんしな──あっせや! 寛太、おまえが前に言うてた、京都の外れにあるどっかの田舎に空き家があるって言うてへんかったか? もしそれやったら、こんな掃き溜めみたいな場所から、みんなで脱出できるんとちゃうんか?」
「あ~ぁ、あれな。あれは、わしの実家のことを言うてたんや。もう、親父もおふくろもいいひんさかい…そこへ皆で住むんも悪ぅ~ないかなって、一時は思ったんやけど、いかんせん家がありえへんぐらいぼろぼろで、かなりの修繕をせなあかんのんや。それと、あまりにも田舎過ぎて、まったくってゆうてええほど仕事があらへんがな」
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