退去勧告
「えっ!? そんなことになったら、私ら行くとこあらへんやん! どうしよう……」
幸司の嫁の真理子が驚きとともに声をだし、困り顔で夫である幸司を見つめた。幸司も、うーんと唸りながら腕組みをしだす始末。だが、生まれもって鷹揚な性格の善三が、心配そうな二人に、うじうじと悩んでもしょうがないだろうと言わんばかりに、おおらかに申し述べた。
「まあ、そうなったらそうなったときに考えたらええ。今は、なんも考えんと食べようや。そんなこと考えて飯食ってたら、せっかくのご馳走がまずーぅなるわ。──よっしゃ、多栄子さん、もうええんとちゃうか?」
「そうね。さあ、皆さん、いただきましょう」
現在、公園の段ボールハウスを棲み家にしているのは、善三と寛太と幸司夫妻だ。その他にも、数名、仲間がいるのだが、今は出稼ぎに出ており帰るのは約1か月後。
幸司夫妻も気持ちを切り替え、割り箸を手に取った。そうしてから、ほどよく煮えた極上肉を溶き卵につけて、口の中へ放り込んだ。すると、一抹の不安が吹っ飛ぶぐらい美味しかったのだろう。幸司夫妻は、満面の笑顔をこぼし、頬っぺたもこぼれ落ちそうになったようだ。
落ち込むことがあっても、美味しいものを食べると元気になれるのは、脳内でたくさんのドーパミンが分泌されるから。 人は、幸せを感じた時、ドーパミンの他、セロトニン、エンドルフィン、オキシトシンなどの脳内伝達物質が分泌され、多幸感を得ることができるようになっている。
その後、皆がご馳走をたらふく食べ終える。ひとしきり、至福の時を過ごせたと思えたときだった。突然、アンナのスマホが鳴りだした。
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