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「まあ、そのうち涼平のやつ、またひょっこりと現れるだろうよ」
幸司があっさりとつぶやくと、大きな三毛猫が紗綾の腰あたりに、べたっと頬をつけたまま静止している。
「あらぁ~、りょうちゃん、えらく紗綾ちゃんになついてるわね。よっぽど、紗綾ちゃんのことが気に入ったのかしら?」
感心したように多栄子が言うと、紗綾が頬を綻ばせ後ろに手をまわす。りょうへいの顎の下をこちょこちょと掻きだした。気持ち良さそうに喉を鳴らすりょうへいはご満悦の様子。
「うふふ、そうなんですね。でも、なんか、助けてもらった私がこんな豪華なごはんを涼平君より先に食べるのも気がひけるというか……」
「気にしない、気にしない。今日はあなたのウェルカムパーティーもかねてなんだから、たんと食べなさい」
アンナがそういうと、紗綾のお茶碗にご飯をよそってあげた。
すき焼きなんて、いつぶりだろう。それも、こんな心優しい人達と鍋を囲んで食べるのって、大人になってからは無かったことだな。
なぜか、紗綾の胸がほっこりとし、心が癒された。が、そんな紗綾の思いとは別に、アンナが突然、思い出したように皆に知らせた。
「あっそうそう、お母さんが先にみんなで食べててくれって。お母さんは相談者のところで呼ぼれてくるからって、言ってたわよ」
それに言葉を返したのは善三だった。
「そっか、およねさんも大変やな。俺らも、およねさんに、これ以上迷惑かけんようにせんとな。およねさんも年やから、あんまし無理させたらあかんしな」
「せやせや、でもよ善三、ちょっと雲行きが怪しくなってきたで。ワンバウンドかツーバウンドの影響か知らんけど、公園から俺らホームレスを一掃するらしいって噂が流れだしとるんやで」
「寛太、それを言うならインバウンドや。政治家が海外から来る観光客の目を気にしとんねんやろ。来年には万博もあるらしいからの」
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