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アンナが、お風呂に入れという意味がわかった。特殊なマスクをつけていたせいで、ボンドが顔や首一面にこびりついていた。それと、車や人通りの多い地面に直に座っていたので、体が排気ガスや埃まみれに。おまけに、鼻の中も煤けた感じで黒っぽくなっている。
その後、少し時間がかかったが、やっとの思いで全身をきれいに洗い流すことができた紗綾。多栄子が用意してくれた衣服に着替えていると、なにやら美味しそうな香りが紗綾の食欲をかきたてた。居間に戻ると座卓にはすでに夕食が並べられていたのだ。
座卓の真ん中には、すき焼きの鍋がコンロの上に置かれており、すでにお肉や野菜がぐつぐつと煮込まれていた。もちろん鰡の刺身も鍋の横で存在感を示している。その座卓のまわりを多栄子とアンナ、それにいつの間にかやって来た善三と寛太、幸司夫婦が囲んでいた。
その美味しそうな料理が目に飛び込んだ紗綾は、ほかのメンバーはそっちのけで、思わず頬がこぼれ落ちそうになってしまった。
しかし、誰よりも存在感を表している大槻の姿が見当たらない。大槻は、タクシーの仕事があるため、一足先に食事を済ませたようだ。
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