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「そうか、胡蝶風月か…あそこの店は、前からあんまりええ噂はあらへんからな。せやけど、男もそこまでするか…そいつは、よっぽどの悪人か、それとも他になんか深い事情でもあるんかいな?」


 ふと、高槻がおもっていたことを口にだす。しかしその考えは、どちらも当たっていた。よほどの悪人、深い事情。誰にでも考えれることかもしれないが、紗綾からしたら、その深い事情の方は触れないで欲しいと願った。


 そんなとき、またしても大きな三毛猫が紗綾の足に、すり寄ってきた。これはグッドタイミングだと思った紗綾。間髪いれずに、猫の話題に切り替えようとする。


「可愛い~、この猫ちゃん、にゃん種は何ですか? あっ、ちょっと待ってください。私が当ててみせます」


 ちょっと前に悲痛な経験をしたのに明るく振る舞おうとする紗綾。その姿に皆が頬を緩ませた。


「にゃん種ってか? そうか、猫やもんな、お嬢ちゃんも上手いこと言うな。ふふふ、ええで、当ててみてや」


 どこか含んだ笑いをした高槻がふんふんと頷きながら喋った。


「あの、この猫ちゃんかなり大きいですよね。えっと、ちゃんとした正式な名前が出てこないんですが多分、こんなに大きいんやから、北欧がルーツで東京弁とかも混ざってるような名前の……えっと、なんやったっけ?」


「もしかして、ノルウェージャンのことかしら?」


 目尻を下げながら猫好きな多栄子が口を動かした。


「はい。そう、それです。そのノルウェージャンです!」


──ブ、ブブゥーー ──


 違ったようだ。ではもうひとつ、大きな猫で思い浮かぶ、にゃん種。しかし、紗綾はまたしても猫の正式な名前が頭に浮かんでこない。けれど次の瞬間、パッと名前を思いつく。紗綾は、ポンッと手を打った。


「わかった! 他に大きな猫といったら、メークインや」


「それは、ジャガイモ!!!」


 息を合わせたように高槻夫妻とアンナの声がそろうと、狭い居間の中で笑いが広がった。


 紗綾が思っていた正式な猫種は、メインクゥーンだった。

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