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「ん? 紗綾ちゃん?? 梅子さんじゃなかったのかい?」
反射的に高槻が問いただす。
「だから~、紗綾が本当の名前で、梅子はお母さんが勝手につけた名前なのよ。これには、ちょっと色々と訳があるの」
アンナは口を動かしながら、慣れた手つきで紗綾の顔に貼り付いているマスクをゆっくりと剥がしだそうとする。
「うわぁー、すごいわね。映画のワンシーンみたい」
思いもかけない光景に、高槻の嫁の多栄子が目を大きく見開いた。
「だから、そういうことなのよ。どう? 上手に変身させてたでしょ?」
「おおっ! さすがハリウッドで修行してただけのことはあるな。わしゃ、アンナちゃんをちょっと見直したで。──でも、なんでわざわざこんなことを?」
「この娘は、悪い奴等に追われてるみたいなの。それを、お母さんがいつものお節介で助けたのよ」
「ああっ! もしかして、あちこちに顔写真が貼り付けられてた子かしら?」
なにかを思い出したように多栄子がつぶやくと、高槻もピンときたようだ。
そういえば、およねさんとこの娘を難波で降ろして客待ちをしていた時、若い男が女の子の顔写真を持って聞きまわっていたな。高槻の記憶が思い起こされる。
「そうみたいよ。元彼氏にストーカーされてるんよね?」
手際よくメイクを落とす手を一瞬だけ止めると、アンナが紗綾に目をやった。
「はい、凄くしつこくて。それに胡蝶風月とかいう風俗店に売られそうになって……怖くなって逃げ出したんです。でもそしたらまた捕まって…そんなとき、およねさんに助けられたんです」
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