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色褪せた記憶

 まだそこらじゅうに、ヤクザらしき男達や黒服の男達がうろついている。


 車から降りた高槻が玄関引戸をガラガラと開けると、綺麗な女性が出迎えてくれていた。おそらく高槻の嫁なのだろう。年の頃は40代後半、ややふっくらとした丸顔美人だ。見るからに愛嬌があり、優しい笑顔を紗綾にも向けた。


 ここへ帰る途中、おそらくおよねからも連絡があったのだろう。玄関越しから、その女性が紗綾を見て手招きをしてくれている。


 そんなとき、通りの向こうからも大きな声が聞こえてきた。


「ねぇ~ねぇ~、ゴリのおじさ~ん。(ぼら)の刺身、持ってきましたわよ~♪」


 元々は低音なのに、とってつけたかのように女の甲高い声音をだそうとしている。おまけに鼻声ときた。紗綾は、振り向かずとも声を聞いただけで誰だかわかった。そう、アンナだった。


 アンナが高槻のすぐ近くまで来て並ぶと、なんともいえない威圧感が漂った。あたかも一種変わった大型珍獣達が相手の存在を確かめ合うように臭いを嗅ぎ合おうとしているようだった。


「おぉ! アンナちゃんやないか。どうや、仕事の方は、順調かい?」


「やだぁ~、ぼちぼちやってますわよ。今月はまだひとつも仕事が入ってないですけど……オホホホ」


「そりゃ笑えへんな。どれ、ワシの客におるゲイバーのママに仕事を頼んでみようか?」


「ちょっと、いらないことをしないで! あたしはゲイじゃないの。何度も言うけど、れっきとしたドラッグクィーンなのよ」


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