15.
数分後、建物から出てきた高槻は車に乗るなり、清々しい笑顔を紗綾に見せた。
「おまたせしました。じゃあ、戻りますね」
「えっ!?」っと、大きく目を見開けて、あからさまに驚いた表情を作った紗綾は高槻に何か聞きたげだった。というのも、さっき苦労して集めた小銭が洗面器の中から消えていたから。
それを察してか、笑顔良しの高槻はバックミラー越しに向かって口を開いた。
「あぁ~、洗面器の中に入ってたお金は、ここの乳児園に寄付してきたんですわ」
「へっ? 乳児園って?」
初めて聞く言葉だった。
乳児園(乳児院)とは、なんらかの理由で保護者との生活が困難な乳児を預かる施設。高槻は、そこへ洗面器の中に入っていた小銭を寄付してきたのだ。
けれど紗綾は、苦労して集めたお金をどうしてこの施設に寄付したのかまったく理解できなかった。そんな紗綾の疑問を氷解さすかのように、ふたたび高槻が話しだす。
「いつものことですわ。およねさんはお乞食で集めた金を全額寄付するようにしてるみたいですわ。綺麗なお金は綺麗な使い方をせなあかんって……これもおよねさんのいつもの口癖ですわ。あっ! いけねぇー、あんまり喋り過ぎたら又、およねさんに叱られちまうわ。がはっはははは」
身体に比例して笑いかたも豪快な高槻は、おもむろに後ろへ振り返り、毛深い大きな手を紗綾に差し出す。と、ゆっくりと開けた。その手のひらの上には、先ほどの親子からもらった五百円玉1枚だけがのっかっていた。
「これは、梅子さんにって。今日の日当やって、およねさんが…」
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