表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/312

10.

 なにも反応がないことに、しびれを切らしたバカップルは小首を傾げると、何気に女の方が洗面器に入っているお金に手を伸ばした。その時だった。およねが杖で女の手の甲を軽く叩いた。


「痛っ! ちょっと、なにすんのよ!」


「自分が入れたお金だけ持っていけ!」


 およねの、梅干しのような口元が動いたかと思うと、迫力のある渋い声がする。


「ふんっ、乞食のくせして、えらそうに!」


 およねが女を一瞥すると、女は百円玉だけをとって、捨て台詞(ぜりふ)と醜悪だけを残していった。


 この若い女は、洗面器の中のすべての小銭を盗もうとしていたのだ。おぞましい。これほどまで、人の心が(すさ)んでいるのかと紗綾は険しい顔をみせた。


 その(のち)も、ごく(わず)かな善人と様々な悪人が近づいてきた。どれもこれもが、良い意味でも悪い意味でも目を見張るものがあった。


 もう、いつの間にか日が暮れだしている。とうに足の痺れに限界を感じていた紗綾は、おもむろに洗面器の中のお金を数えだす。すると、それに気づいたおよねが紗綾に問いかけた。


「梅子、全部でいくらになった?」


「はい、多分3655円です」


「そうか、大漁か。今日は、おまえのおかげやな」


 およねの嬉しそうな声音に紗綾は小首を捻り、どういう意味か聞こうとする。


「どういうことですか?」


「欲どおしくない勝利やということや」


 なるほど、おそらくビギナーズラックのことを言っているのだろう。

お読みいただき、ありがとうございます。 少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。 評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ