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7.

 およねも、そのことに気づいたようだ。およねは、大きなあくびをしてから、うつむき加減の紗綾につぶやいた。


「ふあぁ~あぁ~~。おまえも人気者じゃの、ふっふふ。まあ今のお前の姿を見ても誰もわからんじゃろうから、安心しな。それより、今日の晩飯代を稼がないとな」


「は、はい」


 そうだ、この老婆の格好なら誰もわからない。紗綾は、およねの言葉にほっと息をついた。


 ほどなくして、今度は小学校にあがるかあがらないくらいの男の子が駆け寄ってきた。その後ろには、若いお父さんとお母さんの姿が見てとれる。


 したらば、男の子がとっとっとと、たどたどしく走ってくるなり小銭を勢いよく洗面器に投げ入れた。黄色い洗面器の底には、二枚の五百円玉硬貨が円を描くように転がっている。と、子供の後ろから声が聞こえてきた。


「これこれ、お金を投げたらダメだよ。ちゃんと優しく置かないと。──どうも、すいません、投げてしまって。少ないですが、これで何か温かいものでも飲んでください」


 申し訳なさそうに頭を下げたお父さんは、そう言って男の子の手を繋ぎ、足早に立ち去ろうとする。


「どうも、おありがとぉごぜぇーますだ」


 なぜか、およねが時代劇口調でゆるりと礼を言うと頭を下げた。紗綾もつられて頭を下げる。


 若いお父さんは、うんうんと自分の行いに納得したかのように頷くと、優しく微笑んでいる嫁の元へ子供の手を引いて戻っていく。そうして立ち去る間際、なにやら子供に話しかけていた。


「ゆうき、困った人を見たら自分ができることをしてあげるんだよ」


「うん、パパ。さっきのお婆さんは、こまってたの?」


「そうだね…」


 次第に親子の声が雑音でかき消され遠退(とおの)ていく。残念ながら、それ以上は聞き取れなかった。けれど、紗綾は、その親子の情けに胸を熱くした。同時に、なぜなのか恥ずかしさも込み上げた。

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