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6.

 とたん、およねの口が小さく動いた。


「梅子、こんなことぐらいでいちいち動揺するんじゃないよ。もっと人間をよく見な。同じ目線からなら、その人間の姿形がよく見えるのは当たり前。けどな、地べたから見てみ。その人間の本性が、とことんよぉ見えてくるからよ」


(この人は、一体何を言いだすんだろう。地べたから見ると、その人間の本性がよく見える? そんなことどうでもいいから早くこの場から離れたい)


 そうこうするうちに、なぜか数時間前、タクの事務所の付近で惠介と会話を交わしていた男が目に映った。わざとダボっとしたジーンズをずり下げて穿き、歩く度にジャラジャラと音をさせている。いくつもの鍵を腰からぶら下げているせいだ。

 

 惠介のことを、惠さんと呼んでいたスカウトマンだ。


 このスカウトマン、通行人にスマホ画面を見せ、何かを訊ねている。耳を凝らす紗綾。すると、男の声をとらえることができた。


「ちょっ、すいません。人を探してるんですが、この女性を見たことないですか? ちょっと家族が心配してまして……」


 おそらく画面に映っているのは私の顔写真だろう。スカウトマンの男は、スマホの画面を通行人に見せ、見たことがあるかどうかを手当たり次第に聞きまわっている。視界を広げると、この他にも複数のスカウトマンのような男達が同じようにスマホを片手に、通りを歩く人々に声をかけている。


 こんな街中にも、惠介達の目が光っていた。思わず、紗綾は顔を隠すようにうつむいた。

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