5.
紗綾の顔と態度に緊張が走る。
(もしかしたらお金を入れてくれるかもしれない。入れてもらった後、なんて言えばいいんだろう。やっぱり、普通にありがとうございますかな?)
そんな裏表のないことを考えていると、男は、老婆の乞食を見るなり、突然、唾を吐きかけた。
「ペッ、ペッ、薄汚いルンペンがっ! 邪魔じゃ、どっか行け、こんなとこで目障りじゃ! カァーァ~、ペッペッペッ」
無理やり痰をだし二人の前に吐き捨てると、初老の男は人混みの中へと消えて行った。
ついさっき男が近づいたときは、甘いことを考えてしまった。が、やはり紗綾の恐れていたことが現実に起こってしまった。およねからお乞食さんと聞いた時から、嫌な予感がしていた。初老の男の傍若無人な態度を目の当たりにした紗綾はおろおろしながら、首を横に向けおよねに目をやった。が、およねは何事もなかったように背中を曲げ正座を崩さない。顔もまったくもって無表情を装っている。いや、それが彼女のいつものスタンスなのだろう。
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