4.
紗綾は杖をつき、黄色い洗面器を持って足を引きずりながら、およねの後へと続く。未だに足首の痛みはとれていない。
「よっこらしょ。──梅子、お前もここに腰をおろせ」
およねは、百貨店の高真志屋の正面玄関の前に新聞紙を広げると、いきなり座り込んだ。
「えっ!?、えっええー! いやぁ~いくらなんでも、ここはダメなんじゃないですか?」
「ダメなことあるかっ! わしらは世捨て人なんじゃ。誰にも文句は言わせねぇー。さあ、梅子、つべこべ言わずに、はやく座れ!」
仕方なく、およねの隣に座る紗綾。覚悟を決めたとはいえ、人目を憚ることもできず、おろおろと戸惑いつづけた。そんな紗綾を見ておよねが、すかさず叱咤する。
「梅子、おまえがそんなにおどおどしてたら、誰も近寄って来んやろ! もっと、この世の終わりみたいな顔をして大人しく座っとけ!」
「は、はい」
まごまごする紗綾が地面に腰を降ろすと、およねが続けざまに指示をだす。
「それじゃあ、その洗面器を自分の目の前に置け。それと正座をする。お乞食さんらしく金をもらう態度をとりな」
そうしてそれから約十分後、最初に目の前に訪れたのは60代半ばの体格の良い男だった。
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