ニッチなお仕事
顔中、シミと皺だらけの紗綾。だが、憂いを帯びた瞳と声だけは、若々しかった。
(もうこうなったら、およねさんの言う通りにして、六日間ここで過ごすしかない。それに、どんな仕事でも少しは収入を得れるだろう)
そう思った紗綾は、準備が整ったゴリラ似の男のタクシーにおよねと一緒に乗り込んだ。自動でドアが閉まると、男はメーターを回さず車を走らせた。
「およねさん、隣のねぇーさんは新人かい?」
「そうさ。私の妹みたいなもんや」
「そうですかい。じゃあ自己紹介、俺は高槻慎太郎、ヨロシク」
高槻が、バックミラー越しに笑顔で挨拶をする。
「わたしは、さあ…いえ、梅子です。こちらこそよろしくお願いします」
紗綾の張りのある声を聞いた高槻は、少し違和感を覚えたが、その疑問を払拭さすかのように問いかけた。
「なんや、めっちゃ声が若いな。声優かなんかでもしてたんかいな?」
「いえ、あまり昔から声がかわらなくて」
「そうか。で、およねさん、今日もいつもの場所でするのですかい?」
「あぁ、あそこが一番、あたりがよかったからな」
「そうですか。あっそうや! この前、頼まれてた洗面器、もらってきたから。これ、使ってくれたらいいですし」
「ふっふふ、おおきによ。ゴリ男のわりには仕事が早いの」
「だから、およねさん、その呼び方はやめてくださいや」
「ふむ。一応、考えておく」
「ところで、梅子さん、このお仕事は初めてかい?」
「えっ!? わたしは何にも聞かされてないですので…」
「あちゃー、そうですか。まあ、生涯、勉強だと思って気軽に座っててくださいや。時間がきたら、また迎えに行きますから」
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