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 皆の協力のおかげで、さしあたっての危機は回避できた。老婆に(ふん)する紗綾を見て、誰も疑う者は現れなかった。


 ややあって、およねとおよねに『梅子』と名付けられた紗綾は近くの民家に来ていた。その民家は、木造モルタル二階建ての小さな家。隣と隣の家の境は数十センチしかない。どうやって外壁をこしらえたかと疑問が湧くほど。その家の前には個人タクシーが、狭い敷地にぎちぎちに停められている。


 勝手知ったる我が家のように、およねは、その家の引き戸をガラガラと開けると、大きな声で呼び掛けた。


「おーい、ゴリ()。もうすぐ出るのか!?」


 すると、中からごっつい男が、がに股歩きで玄関まで駆け寄って来た。まさに、ゴリラ体型だ。ほどよく腹が出て、頑丈そうな骨格に毛深い中年男性だ。それに顔もゴリラのように勇ましい。というか、暑くるしそうだ。


「おぉ、およねさん。今日も難波まで乗って行くんですかい?」


「あぁ、たのむ。今日はわしの連れと二人や」


「はいよ、かまいませんで。じゃぁ、ちょっと待っててくださいや。荷物を取ってくるさかいな」


 男はそう言うやいなや、奥から仕事道具のようなバックを取りに行った。


 なにがなんだかさっぱり分からない紗綾は、およねに聞いてみることにした。


「およねさん、今から難波の方に行くんですか?」


「そうさ。仕事をしないと家賃も払えんし、飯にもありつけないからの」


「あのぉー、どんなお仕事ですか?」


 なぜか紗綾は、聞にくそうに尋ねた。


「こんな格好をしてるんやから、ひとつしかないやろ」


 ものすごく嫌な予感しかしなかった。

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