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「それで、おたくさんらはどこの(もん)でっか?」


 初めに口を切ったのは遠藤だった。視線を逸らさず落ち着いた口調で訊ねだした。


「あぁーん! 人に名前を聞く前に自分が名乗るんが礼儀やろうがっ! おぉっ!」


 語尾を強める、がたいのよいヤクザも遠藤の視線から1ミリも逸らさない。落ち着きのない態度で、ポケットに手を突っ込み、ジャラジャラと小銭を掻き回している。


「そうでっか。ほな、先に名乗ったる。私らはここのもんですわ」


 遠藤は、黒のスーツの胸ポケットから1枚の名刺を取り出し男に手渡した。


「ほぉ~、あんさんら、あちらの団体の方でしたか。ほぉ~なるほど….なら、悪いけどちょっと待ってくださいや」


 若干(じゃっかん)、態度が変わったヤクザの男はそう言うなり、少し離れた場所で電話をかけだした。


 数分後、ヤクザの男が遠藤に近づき話しかけた。


「今回は、あんさんとこの会長の顔を立てて、この場は引かせてもらいますわ」


「そうでっか」


 力関係が明らかになった。政界や財界にも太いパイプをもつ闇の業者。ヤクザ達も、どちらが格上かわかれば、引くのも早かった。だが、面子にこだわるヤクザはすんなりとは引かない。相手の組織が格上でも、媚びることなく条件をつける。ヤクザの交渉術の一貫なのか。がたいのよい男は、(くっ)したかと思うと遠藤に宣戦布告ともとれる発言をしだす。


「この場はいったん引かせてもらいます。せやけど今後、ここ以外の場所では、絶対に譲ることはおまへんで。今、ここで一回はあんたらの顔を立てたんや。それだけは、よー覚えといてくださいや」

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