11
「それで、おたくさんらはどこの者でっか?」
初めに口を切ったのは遠藤だった。視線を逸らさず落ち着いた口調で訊ねだした。
「あぁーん! 人に名前を聞く前に自分が名乗るんが礼儀やろうがっ! おぉっ!」
語尾を強める、がたいのよいヤクザも遠藤の視線から1ミリも逸らさない。落ち着きのない態度で、ポケットに手を突っ込み、ジャラジャラと小銭を掻き回している。
「そうでっか。ほな、先に名乗ったる。私らはここのもんですわ」
遠藤は、黒のスーツの胸ポケットから1枚の名刺を取り出し男に手渡した。
「ほぉ~、あんさんら、あちらの団体の方でしたか。ほぉ~なるほど….なら、悪いけどちょっと待ってくださいや」
若干、態度が変わったヤクザの男はそう言うなり、少し離れた場所で電話をかけだした。
数分後、ヤクザの男が遠藤に近づき話しかけた。
「今回は、あんさんとこの会長の顔を立てて、この場は引かせてもらいますわ」
「そうでっか」
力関係が明らかになった。政界や財界にも太いパイプをもつ闇の業者。ヤクザ達も、どちらが格上かわかれば、引くのも早かった。だが、面子にこだわるヤクザはすんなりとは引かない。相手の組織が格上でも、媚びることなく条件をつける。ヤクザの交渉術の一貫なのか。がたいのよい男は、屈したかと思うと遠藤に宣戦布告ともとれる発言をしだす。
「この場はいったん引かせてもらいます。せやけど今後、ここ以外の場所では、絶対に譲ることはおまへんで。今、ここで一回はあんたらの顔を立てたんや。それだけは、よー覚えといてくださいや」
お読みいただき、ありがとうございます。 少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。 評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。




