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アパートの前に到着するなり、住人と思わしき高齢な男が遠藤に告げた。この老人、栄養が足りてないのか、頬が痩せこけており、襟元がよれよれのトレーナーが、だほついてるようにみえる。その住人が目をギョロギョロと動かして早口で喋った。だが、前歯が一本しかないこともあって、もごもごと何を話しているのか聞き取りづらい口調だった。
「こ、こくでしゅわ。こにょアパーオに、こにょ写真の女が、ばぁばあと、いっちょに入って行くん、見たんでしゅや」
この難解な言葉を聞いた遠藤は、老人の口を封じるかのように睨み付けると、素早く首をぶるっと振った。聞かれてはまずい奴等を目の端で捉えたからだ。
だが、ヤクザの一人がこの年寄りの言葉を聞き逃さなかった。このヤクザも下町育ちなのか、こういう物言いを聞くのは慣れていたのだろう。すぐさま、黒服づくめの男達を横目に住人と思わしき年寄りに近づくと、威圧するかのように強い口調で尋ねた。
「おい! おまえの言ってる写真の女って、この女のことか?」
いきなり紗綾の写真を見せつけた男の言葉に、高齢男性は怯えたように首をすくめた。と、そこへ遠藤がその男性を庇うように前に出る。
つかの間、ばちばちと高圧電流がぶつかり合うような睨み合いがつづく。二人は無言のまま、きつい視線を浴びせあっている。遠藤の後ろにいた7人の男達も一人のヤクザを静かに取り囲んだ。だが、アパートの中へ入ろうとしていた方のヤクザ達は、その異変に気付きぞろぞろと近寄って来た。一触即発、もういつ何時、乱闘騒ぎが起こってもおかしくはない状況になった。
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