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 鰡の刺身を食べている最中、アパートの入り口付近から男の怒声が聞こえてきた。それを聞いたおよねをはじめ、皆の顔に緊張が走る。


「あいつら、こっちにまで来やがった」


 外の殺気だった光景を見てきた涼平がそうつぶやくと、おもむろに立ち上がった。


「涼平、どこに行くんや?」


 険しい顔に変わったドラッグクィーンのアンナが問う。


「ちょっと、あいつらを足止めしてくるから、その間に、この()をどっかに隠しといてくれ」


 外では紗綾を探すおびただしい数の人相の悪い奴等が、あいりん地区一帯に混在している。下手に連れ出せば間違いなく見つかってしまうだろう。


「わかったわ、涼平。じゃあ、この()は私に任せて」


 アンナは何かを思いついたように、紗綾の顔をまじまじと見ながら彼女の小さな手を引いた。


「えっ!?」


 アンナは、大きなジェスチャーで紗綾を掌で差してから自身の胸に手をあてて喋りだす。


「これからはあなたのことを紗綾ちゃんと呼ばしてもらうわよ。──さあ、早く立ち上がって。この窓から(わたくし)の部屋に移るわよ」


「よっしゃ! なら、わしらも涼平と一緒に時間を稼ごうかいの」


 そこへ男気のある寛太が、牛刀を手にし涼平の後に続こうとする。その後を善三と幸司も続いた。


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