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 手際よく寛太が酢味噌を作り、胸元くらいの高さの冷蔵庫から(ぼら)の刺し身を取り出すと、皆の頬が今にもこぼれ落ちそうになっている。


「さあ、召し上がれ」


 寛太がニコニコ顔で大皿と酢味噌が入った皿と割り箸を、ちゃぶ台に置いた。


「それじゃ、いただこうかの」


 初めにおよねが箸に手をかけると、他の人達も一斉に箸を割った。


 だが、紗綾だけは得体の知れない魚の刺し身を前にして、戸惑った。


(こんな魚、食べたことがないし。ほんとうに食べても大丈夫なのかしら? もしかしてお腹を壊すんじゃないの?)


 箸を持つことさえ躊躇した紗綾。そんな紗綾を見た涼平は、紗綾の目の前の小皿にひと切れの刺身を置いた。


「遠慮せずに、食べろよ」


 すでに口をモグモグ動かしている涼平は、鰡を見て困惑する紗綾に(なか)ば強引にすすめる。箸を割り、刺身をのせた小皿を無理やり紗綾の小さな(てのひら)に持たせたのだ。


「えっ!? ちょっと待って」


「何を待つんや?」


 仕方ない、ここで食べなければ嫌な空気が流れてしまうかもしれない。お世話になっている人達に嫌な思いをさせたくない。覚悟を決めた紗綾は、思いきって酢味噌につけた刺身を口の中に放り込んだ。

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