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第二話『天使と罪と』(1)

 痛みは、まだある。

 だが、この痛みが、自分が堕天した感触だというのなら、解放された結果生じた痛みなのだとすれば、悪くない。


 不思議な感触、とも言えた。

 自分の足下に落ちている自分の天使の羽が、何故か滑稽に思える。こんな物を自分は付けていたのかと、正直少し、奇妙な感覚になった。


「そうか、これが、堕天した感覚か」


 アザゼルは、いつの間にか呟いていた。


「悪くないな」


 そう言ってから、天使の群れへと疾駆する。

 天使は、迎撃措置すら執ろうとしていない。焦っている、そう見えた。


 一人見えた。剣を横凪に一閃し、そのまま上下に分かつ。

 更に一人の首を斬った後、その横にいたもう一人を袈裟斬りで斬り捨てる。


 更に突き進む。一気に這うように疾駆し、一人、また一人と斬っていく。

 誰もが、呆然とした表情をしていた。


「アザゼル殿! ご乱心召されたか!」


 八人ほど斬ってようやく、天使の中から声がした。

 少し、手を止めた。


「輪が黒くなる上、羽がなくなる。あなたは、我らが天使最大の罪、堕天をしたのを分かっておいでか?! しかもあろうことか、味方を斬った上での堕天とは! これは我ら天界に対する背信行為以外の何者でもありませんぞ!」


 至極、もっともらしい反応だと、アザゼルには思えた。

 それもそうだ。あちらから見たら、今まで指揮していた存在が突然部下を斬り捨て暴れているのだ。そう思っても道理だろう。

 だが、それは天使にとっての道理であって、自分の道理ではないのだ。


「何を、そんなに怒る?」


 だから、こんな言葉が出た。


「天使が人間を捨てたように、俺は天使を捨てた。それだけでしかない。俺には分からない。お前達はどうして、そんな感情が持てる? 勝手だからか? それとも、矛盾しているからか?」

「勝手とは笑止。我らが人界にどれ程の影響を与えたか、存じておらぬわけではありますまい。我らは人間より存在が上なのです。それを人間以下の畜生と成り果てるなど、もはや言語道断! 全軍、裏切り者を始末せよ!」


 一斉に天使が咆哮を上げて突っ込んできた。

 人間が、少し下がる。

 その間に、自分は数歩、前に出た。


 数は残り四〇弱。殺せる。そう思った。

 戦いに感情など邪魔なだけだ。邪魔なら殺す。それだけでしかない。


 駆ける。

 目の前。敵。剣を一閃して首を斬る。

 横から敵の足音。数は五と言ったところか。そのままその方向に脚を動かして、一人、二人と斬り殺す。

 三人目の腹を突いて殺すと、その三人目を囮にしてか、残った二人が同時に攻めてきた。

 死体を蹴り飛ばして剣を抜き、空中から剣を振りかぶった天使を二人、そのまま斬り殺す。


 今度は槍を持った天使が、一斉にこちらへ向かってくる。

 数えるのも、面倒にアザゼルはなっていた。

 こちらに対して立ち向かってくる者は、誰だろうと、敵なのだ。今更敵になった者に感情を持つことはない。


 ただ、敵だから、殺すだけだ。


 すぐさま剣を敵に向かって投げた。同時に、疾駆する。そのまま、剣先が敵天使の顔面に突き刺さった。

 それで、敵の動きが一瞬止まる。その間に、自分は既に敵の懐に入っていて、剣を倒れかけている天使の顔面から引き抜いた。

 それと同時に、展開している天使を、右へ、左へと斬り捨てていく。


 槍を持った天使が、咆哮を上げながら向かってくる。

 槍は確かに、射程の面では脅威だ。だが、懐に入ればいざというときの攻撃手段はない。そこを突くだけの話でしかない。

 思った瞬間に駆けて、槍が突き出た瞬間に避けた後、空いていた左手で天使の顔面を鷲掴みにして、横にひねって首の骨をへし折った。

 そのへし折った天使を、まだ固まっている天使郡に投げる。何人か倒れたその瞬間に再び疾駆する。


 そこにいた何人かは、みんな殺した。

 何人斬っただろう。アザゼルは、自分が返り血で血まみれになっていたことに気付いた。


 敵は、残り五人程まで減っている。

 明らかに、相手が怯えていた。


「何を恐れる。天使なのだから、人間を狩るのだろう? それが自分が死にそうになったらそれか? その感情、何と言うんだ?」


 相手の剣先が、震えていた。

 そろそろ殺すか。


「ひ、退け! 退けぇ!」


 向かっていた天使のその声で、他の天使共々、バラバラに逃げていった。

 周囲は、呆然とした人間と、天使の死体の山で覆い尽くされている。


 首元に、衝撃が来たのはその時だ。

 軽い衝撃。何かに、刺されたような感触だった。


 振り返ると、あの女を護るように男が一人立っていた。

 壮年の、ダークブラウンのジャケットを羽織った男だった。

 その男の手には、ライフルが握られている。

 後ろの首を触ると、何かが触れた。


「麻酔だ。悪く思うな。拘束させてもらうぞ」


 男の声がそうした瞬間、眠気が、襲ってきた。


 少し、疲れたな。


 地面が近づいてくると、何故か、そんなことを思った。

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