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ははははははははは

作者: 雉白書屋

「ぷぅー!」


「はははははっ!」

「サイコー!」

「ははっあはははは!」

「似てる似てる!」

「マジ才能!」


 ……口でおならの音の真似。はぁー……くだらない。本当にくだらない。でもそれを教室にいるみんなが笑っている。女子もチラッと見てクスクス、ああ、あの子も。はあ、つまらないのに。ギャグでウケているわけじゃない。単にアイツが人気者だからみんな笑っているんだ。そこんとこアイツはわかってないし、みんな自身もわかってない。ああ、まったく腹立たしい……。


「ぷぅうううー!」


『HAHAHAHAHA!』


 しつこいしつこい。何回擦るんだよ。まーだ、あんなので笑ってまったく……ん? いや、今の笑い声、なんか変な……。


「ぷぅ~?」


『HAHAHAHA!』


 え、やっぱりだ! 今、海外のコメディードラマに挿入されるような笑い声がした! 

 教室のスピーカーから? いや、そんな感じじゃ、じゃあ幻聴? 違う。どうやら、ぼく以外にも聞こえたみたいで「ねえ今の……」とか言って、みんなザワザワしている。

 誰かが自前のスピーカーから流した? いや、それも違うみたいだ。


「ぷー!」


『HAHAHA!』


 まるで今、誰かがぼくらを見ているみたいだ。宇宙人? 異なる次元と繋がった? それとも遥か未来のテレビ番組で『過去の小学校の教室の様子を観察』とか?

 わからない……でも調子に乗ったアイツはおならの声真似を連発した。


「ぷっぴっぷー!」


『HAHA……』


 ふふん。でもさすがに見ている側も飽きたようだ。アイツは頭を掻いた。次に他のヤツが掃除用の乾いた雑巾を床に置き、わざと踏んで滑って転んで見せた。


『OHoooo! HAHAHAHAHA!』


 ふん。反応は上々のようだ。ドヤ顔が腹立たしい。

 それを皮切りに自然と、誰が多くの笑い声を獲得できるか勝負が始まった。女子たちは呆れ顔だけど興味があるのが隠しきれていない。やはり面白いヤツというのはモテるのだ。


「レモン一個に含まれるビタミンCはレモン一個分なんだぜ!」


『HAHA……』


 古いネタだ。反応は悪い。


「キョイ! キョキョイキョイ!」


『Hmmm……』


 奇声を上げながら変なポーズを取ったヤツ。これも反応はいまいちだ。耳が真っ赤になっていくのが見えた。


「だーるまさんがーこーろーば……ない! 驚異のバランス感覚!」


 と、他に時事ネタ。ダジャレ。勢いだけのギャグ。うろ覚えの落語。下ネタ。ネットの人気者のモノマネ。お笑い芸人さんのネタの丸パクリ。

 どれも反応が薄い。どうも評価が渋くなっているようだ。観客は評論家を気取り始めたらしい。


「飽きたな」

「別に笑いとかほしくねーし」

「お前らがやってみろってんだし」

「ぷー……」


 黒板の前に意気揚々と躍り出ていた男子たちはそう不貞腐れた。まったく、客のせいにするなんてしょうもないヤツらだ。全然わかってない、わかってない。仕方がない素人さんたちだなぁ。さて、それじゃそろそろ真のお笑い好きの力を見せてやるとしますかな。


 ぼくは椅子から立ち上がり、机の間をずかずかと歩いた。少し静かになり、みんなの視線が集まる。

 さすがに緊張するなぁ。でもやるしかない。いや、やるべきなんだ。ぼくは鼻から大きく息を出し、また吸い込んだ。そして


「うぇえええええんえええええん!」


 泣き真似。なんだなんだとみんなの注目を一点に集める。狙い通り、よし、今だ!


「うええええんおおおおオーイェ! アハーン! ハハン! ハン! アハン! ウーエィエェェェェェェェ!」







 真っ白だ。

 ……静まり返る教室。ぼくは一瞬、クラシックの演奏のように間をおいた後、拍手が起きると思った。

 でも違った。どうやらみんな、曲自体を知らないらしい。遅れて起きたのは嘲笑めいたクスクス笑い。


「ねえ、あれ……」

「ふふっ」

「やば空気」

「ねー」

「ちょっと黙ろうか」


 そして、ぼくは「おい、あっち行ってろよ」と、背中を小突かれた。

 ぼくは震えた。お前らに……お前らにお笑いの何がわかるって言うんだ! ぼくはお笑い芸人さんのラジオを毎週二つもリアルタイムで聴いているんだぞ!

 ぼくは拳を握り、小突いたヤツをぶん殴った。


『Fooooo! HAHAHAHAHAHAHAHA!』


 ――えっ。

 

 過去最大の笑い声! ぼくだ! ぼくだぞ! 今の! ああ、宇宙人か未来人か何かは知らないけど、どうやら暴力的なのが好きみたいだ。

 なるほどなるほど。もしかしたら彼らの世界では暴力行為は厳しく禁止されていて、こうして見ることぐらいしかできな――痛い!


『HAHAHAHAHAHAHAHA!』


 あああ、笑いが、ぼくの笑いが! クソッ! よくもぼくの笑いをとったな!

 この、ドロボ……え? 今のは……。

 ぼくが両手をグッと握ったその瞬間、教室の窓が割れた音がした。全員が窓の方を向く。でも、割れたのはここじゃない。と、また割れた音がした。隣の教室みたいだ。

 と、いうことはまさか……隣でも?

 て、思ったら今度は窓のさらに向こう、町の方で黒い煙がモクモクと上がった。


「……ふふ、はははははは!」


 あははっ! なーんだ。やっぱりみんな、お笑いが好きなんだなぁ。

 あはははははは、ははははははHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAはははははは、ははははははははHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAはははははははははははは、ははははははははははははははははHAHAHAHAHAHAはははははははは、ははははははははははHAHAHAHAはははははははははははははははははははははははははははは――

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[良い点] 面白い!とにかく面白い!狂気的なのが本当に好き
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