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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第1部 「新たなる奇石」
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6 「聖剣到達の条件」

「改めて自己紹介だ。俺はニコラス、防具職人をしている。本当は金銀細工が好きなんだが、必要に駆られて鎧作りを独学で学んだ。ハサミなどの日用品も作る」


「あ、そういえば姫様が立派なハサミを持っていたんだけどさぁ〜」

おれは銀のハサミを思い出した。


「あぁ、それは俺が作ったんだ。イルザ様はここをよくご利用になる」

ニコラスが照れ臭そうに言う。


ニコラスの次に、気だるそうな青年が口を開いた。

「アイザック、よろしく」

彼はそれだけ言った。


「彼は調理用ナイフの名人だ。調理器具、食器などを作ることが多いんだが……まぁ器用だから基本何でも作れてしまう。壁に立てかけてある大盾も、彼が作ったものだ」

ニコラスが補足する。


次に立派なひげの大男が前に出る。

「ホーエンハイムだ。魔鉱石を使って戦鎚や戦棍(メイス)を作っている。光の騎士団の武器はほとんど俺が作った」


「おれはカジバ! 今までドワーフの仲間と武器を作ってた。ここには《聖剣》を作るためにきたぜ」

そう言って3人と握手をする。



「本当はもう1人来る予定だったんだが……」と、ニコラスが頭を掻いたその時、工房に女が1人入ってきた。

気が強そうな赤毛の女だ。


「あぁクラリス、来てくれたのか!」

ニコラスが彼女に言う。


クラリスと呼ばれた女は周囲を見回した後、こちらを凝視した。

「次の聖剣の作り手……まだ子供じゃないか」

品定めするようににらんでくる。


「歳は関係ないだろ? オレは《世界救う力》を持ってんだぜ」


クラリスは表情を曇らせ、「はぁ」とため息をつく。

「今までに作り手が何人死んだと思ってる? あんたは何もわかってないよ、〈聖剣の作り手〉がどれだけ重い使命なのか」

クラリスはそう言うと、近くにある鎧に手を触れた。

火花が散り、彼女の手元が輝く。


「な!? それ、錬成魔術(モーフィング)じゃん!?」


彼女の近くにあった鎧が一瞬で大剣に変化した。

「この剣があんたの剣に勝ったら、次の聖剣の作り手はうちだ」


「おい、勝手なことをっ!」

ニコラスが咎める。


へぇ。

なんだかよく分からねぇが、売られた喧嘩は買うぜ?


「オレぁいいぜ。ずっと欲しかったんだよ、鍛冶師のライバル!!!」

おれは壁に立てかけてあった大楯を長剣へと変える。


クラリスが大剣の刃先をこちらに向けた。

「うちのは大剣〈ホヴズ〉、あんたのとっておきは?」

「大大大〜剣〈レヴェル〉だ!」


「どう見ても長剣だろ」と言うアイザックのツッコミを無視して、おれはクラリスに突進した。


互いの剣が激しくぶつかり合う。


「くっそぉ!」

一瞬でへし折ってやるつもりだったけど……。

こいつの大剣、めちゃくちゃ精度が高けぇ。


「ぶった斬ってやる!」と、一歩踏み出す。

「こいつ……」と、クラリスが目を見開いた。



「そこまでだ!」

おれたちの間にニコラスが割って入る。

「クラリス、もういいだろ。彼は本物だ」


「まぁ、そうみたいね……」と、クラリスが大剣を鎧に戻す。


「なんだぁ、もう終わりかよ」

おれは長剣をゆっくりと下ろす。


「すまないね。彼女の父親も〈聖剣の作り手〉だったから、君が後任者にふさわしいか確かめたかったんだろう」

と、ニコラス。


後任……?


「お前、歳は?」

一連の騒動を無言で見ていたアイザックが尋ねてくる。

「へ? 12だけど」

「ドワーフの里で鍛冶師をしていたんだろ?」

「ん? あぁ、色々手伝ってたぜー。まぁ、ひよっこだったけどさ」


「何百年生きているドワーフと比べたら、そりゃあひよっこだろうけど。12歳で彼らと肩を並べている。ドワーフの作業についていけてるんだ。ちゃんとバケモンだよこいつ」

アイザックがクラリスに言った。


えーと。

認めてくれてんのか?


「言われなくても分かる。……どこで拾ってきたんだ、こんなやつ」

クラリスはそう呟いた後、大きく息を吐いた。


「まぁ……子供って言ってごめん」

彼女がこちらに背を向けたまま言う。


「いいよ、子供なのは本当だし」

「……でも勝負はあたしの勝ち」と、クラリスがニヤッと笑った。


「は?」

その瞬間、おれの持っていた長剣が真っ二つに折れた。

「うぇぇぇっ! なんで!?」


「モーフィングの修行が足りないんだよ、錬成の精度が甘かったんだ。オリジナルのレヴェルの強さはこんなもんじゃないだろ?」

と、ニコラス。

「あぁ……。でも、ミスリルで作ったときは超強かったぜ」

「それは素材の力に助けられただけさ」

「マジかよ」

「そう落ち込まなくていいさ、これから学べばいい。そのために俺たちがいるんだ。君に錬成魔術(モーフィング)の何たるかを教えるためにね」


「あんた達、全員《錬成魔術モーフィング》が出来るのか?」


「あぁ。この鍛冶ギルドには多くの職人が所属しているが、今日はモーフィングが出来る4人が集まったんだ」

ニコラスが腕を捲る。

「さてと。魔王復活は待ってくれないからね、俺たちの知識と経験を君に詰め込ませてもらうよ」



「おなしゃす!(お願いします)」

「それじゃあ、まずはモーフィングについて教えよう」

ニコラスはそう言うと、テーブルに置いてある鉄鉱石に手を触れる。


火花が散り、手元が輝いた。

鉄鉱石が液体のように流れ、散髪用のハサミへと形を変えた。

素材は違うけど形状と細工は姫様の持っていたものと同じものだ。


「おぉ……」

手を叩きながら感心する。


「モーフィングとは簡単に言うと、《魔力で鍛治工程を圧縮し、瞬間的に道具を錬成する魔術》かな」

ニコラスはチョキチョキとハサミを動かした。

「素材と工程について深く理解していれば、どんな道具も瞬時に作り出せる」


「おれぇ、そんな意識してやってないけど」


「君は今までの鍛冶経験を頼りに無意識にモーフィングをしているんだね」

ニコラスはあごに手を当てる。


「次に俺たち4人と君の違いについて話そう。俺たち4人はモーフィングを使えるけど、聖剣の作り手には任命されていない。君は任命された。その違いは《対魔力》があるかだ」


対魔力ぅ?

……そういえば王宮でオリハルコンが言っていたな。


「対魔力の説明を受けたかい?」

ニコラスが尋ねた。

「いいやぁ、知らね」と、答える。


「対魔力とは《魔力への耐性力と対応力》のことだ。これは生まれ持った才能だから後から獲得することが出来ない」

「おれはそれがあんだ?」

「そうだね。そこが君の《特別》なところさ。かなり強い対魔力を持っているみたいだ」

ニコラスは腕を組み、うなずいた。

「高ランクの魔鉱石は破滅的な魔力を内包している。君が見つけたミスリルもね。俺たち4人のように対魔力のない職人はここでお手上げだ。モーフィングしようとしても、俺たちの身体がミスリルの魔力に耐えられない」


「だからさっきの対決でクラリスが勝っても、彼女は聖剣の作り手にはなれないんだよ」

アイザックがボソッと呟く。


「うっさい」と、クラリスがアイザックを睨んだ。


おれ、無意識でそんなことしてたのか……。


「そしてもう一つ。対魔力には重要な点がある」

ニコラスはそう言って人差し指を立てた。

「それは魔鉱石の持つ《魅了効果を打ち消す》ことができる点だ」


え?

おれって魅了を打ち消せるの?

「おれぇ、てっきりミスリルに魅了されてると……」


その言葉にニコラスがクスッと笑った。

「それは単に外見が好みだったんじゃないかな? 魅了効果はね、もっと恐ろしいんだよ。その石のことしか考えられなくなって、周りの人達が全てその石を奪う敵に見えてくるから」



おれはミスリルのことを考えてみた。

美しい銀の髪(それとおっぱい)澄んだ瞳と白い肌……(それと、おっぱい)。


うん。

おっぱい!


「じゃあさ。あんた達はミスリルに魅了されちゃうのか?」

そう尋ねてみる。


「彼女の擬態が解けたら、少なからず魅了されてしまうだろうね」

ニコラスが答えた。


うーん。

そう考えるとめちゃくちゃ危ないのかもな……ミスリルって。


「でもな。俺たちは〈魔力耐性〉を身につけているから、普通の奴よりも魅了されにくいんだ」

ホーエンハイムが言った。


「魔力耐性?」と、首をかしげてみる。


「〈対魔力〉は生まれつきの才能だ。それに対して〈魔力耐性〉は訓練で獲得できるものだ。対魔力ほどでは無いが、魔力に耐えられるようになる。この国は特に魔力耐性の訓練に力を入れていてね。俺たち鍛冶師や、光の騎士、上流階級の人々は皆、魔力耐性をつけている。王様や姫もね」


ニコラスはそう説明すると「これで現在出来ることを把握できたかな?」と、おれに確認をした。

「あぁ多分」と、おれはうなづく。



「では次にいこう。これから聖剣作りのために君に達成して欲しい事を伝えるよ」

ニコラスはコホンと咳をすると、真剣な顔になった。


「聖剣作りに必要な条件とは……。


1、モーフィングを完全習得する。

2、五大属性の魔力を習得する。


この2つだ」

ニコラスが指を折りながら説明した。


「五大属性についてはそのうち説明があるはずだ。俺たち鍛冶ギルドは1の《モーフィングを完全習得する》を手伝うことになる。改めてよろしく」



---



「それじゃあ早速始めよう」

と、ニコラス。


「うっす!」

拳を突き合わせ返事をする。


工房で金槌を使わないことにはまだ慣れないけど……。

というか、おれの金槌はもう壊れたんだった……。


「モーフィングが出来るのは、卓越した鍛冶技術がある証拠だ。自信を持って取り組もう」

ニコラスはそう言うと、廃材の集まった場所に向かった。

「手始めにナイフを錬成してもらうよ。鍛冶工程の圧縮が適切にできているかをナイフの強度で見極めるんだ」


「ナイフゥ?」


「モーフィングは一瞬で武器を錬成するが、その中には《素材を叩き伸ばす》《焼き入れ》《磨く》など、しっかりと工程が存在する」

ニコラスはアイザックからナイフを受け取ると、それを軽く振った。

「君にはそれらの工程をしっかり意識的してもらう。モーフィングに慣れて手作業よりも短く、強力な武器を作るんだ。それが聖剣作りの第一歩だよ」


「うっす!」


ニコラスは廃材を指さした。

「あの中から好きな素材を選んでナイフを錬成するんだ。柄の材料も選ぶように」


「しゃあ!」


おれは廃材の前に立つ。

ミスリルで作った長剣は、おれが作った自信作の剣〈レヴェル〉をイメージした。

あの剣は何本も作り直した末に出来た渾身(こんしん)の1本。

きっと工程が頭に焼き付いていたんだろうなぁ。


……となると。

ナイフも以前作ったものをベースにした方がいいよな。

ドワーフの里で作った狩猟刀(ハンティングナイフ)を思い浮かべてみるか。


「よし、イメージ沸いたぁ!」


廃材の中には、農具の部品や余りの鉄片がある。


この工房は仕事場ではないと言っていた。

廃材もそこまで種類はない。

余りの鉄片は……量が少し足りないか。


廃材の中から鉄の車軸に目をつける。これがいいかもしれねぇな。


その様子を見て、ホーエンハイムがフフンと笑う。

おれの選択を感心しているのか、笑ってるのか、どっちか分からん反応だ。


車軸をテーブルにおくと、あたりを見回した。

柄の素材は、どうすっかな……。


ふと、目の前のテーブルに目が留まった。

「……この素材が一番いいな!」


おれは両手を挙げると、車軸とテーブルの両方に一気に手をついた。


錬成(モーフィング)!」


バチッと火花が散り、周りのみんなが少し下がる。


手元に狩猟刀が出現した。


出来たぜぇ……。

これは良く切れると思う。


ナイフをクルクルと回してみる。

ん?

手の収まりがイメージよりも悪い。


「あっあああああ〜!」

突然、クラリスが膝をついた。

「うちのテーブルぅ〜〜」



目の前のテーブル。

おれが触れたところにポッカリと穴が空いていた。当たり前だ。おれはテーブルの素材をナイフの柄に使ったんだからな。


「テーブルは素材の選択肢に無いよ」と、ニコラスが苦笑する。

「ハッハッハ! この穴、剣をたてかけられるぜ」と、ホーエンハイムも笑った。


「やってくれたわね」

クラリスがこちらを見る。


「わ、わりぃ……」


「それはそうと出来はいいね。それ、アイザックに渡してくれないか?」

ニコラスはナイフを指さす。


言われた通り、ナイフをアイザックに渡した。

彼はそれを受け取り、軽く振った後、工房の奥から木材を持ってきた。

そして、おれのナイフを木材に叩きつけ始めた。


「おいぃぃぃ〜〜〜!!!!!!」

つい叫んでしまった。


アイザックは木材をひとしきり叩いた後、ナイフの刃を観察した。

「ちょっと脆いね」と、彼は気怠げに言う。


なんか腹立つな、こいつ。


「このナイフ、以前作ったことがあるね?」

一連の様子を見ていたニコラスが尋ねた。

「ああ。え、ダメ?」

「いいや、正しいよ。以前作ったものと比べてこのナイフに何か違和感はあったかな?」

「うーん……手の収まりが違ぇ。あとは、ちょっと重いかな」

と、素直に答える。


「多分、前のやつはもっと頑丈だったはず」

アイザックが呟いた。


「当分の課題は以前作ったものと同等の質にすることだね。イメージしたものよりも劣化させてはいけないよ」

と、ニコラス。


「やったるぜ!」

そう意気込んだ後、ふらっと立ちくらみがした。


「1回のモーフィングでバテないようにする事も課題だね」

おれの様子を見てニコラスがほほえんだ。


「やったるぜぃ……」

☆本作に登場する武器と種族のかんたん解説!☆


戦棍メイス

古代からある殴打武器。柄の先には球根型の頭部がついているよ。頭部に突起物がついたタイプも存在するよ。



☆番外編!☆


クワ

土壌を掘り起こす農具。長い柄の先に平たい鉄がついており、鉄の一端には刃がついているよ。


スキ

牛や馬に引かせ、畑や田を耕す農具。


またみてね!

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