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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第1部 「新たなる奇石」
5/42

4 「聖剣の作り手」

石造りの廊下を歩き、おれたちは城の大広間に迎えられた。


目の前には、威厳(いげん)のある大人の男と気品のある女。

それぞれ豪華な椅子に座っている。

女のそばには、黄金の髪を持つ、人形のような美女が立っていた。


広間の左右にも人がいる。

鎧を着た騎士がチラホラ。

偉そうな人にぃ〜、もっと偉そうな人。


人間が沢山いるなぁ〜〜〜!!!

どいつもこいつも背が高くておもしれぇ。ドワーフとは大違いだ。



「うむ、よくきた」

大人の男がおれたちに言う。


「だれ?」と、となりのノーラにきく。


「この国の王と姫だ」

ノーラが小声で答えた。


「バルドールの国王〈バルタサール〉がそなた達を歓迎する!」

王の声でおれの意識は玉座に戻された。

「エレオノーラ殿。事情は察するが、まずはそなたの口から説明していただこう」


ノーラはうなずくと説明を始めた。

おれがミスリルを発掘したこと。職人殺しに2度襲われたこと。そして、おれがミスリルを剣に変えたこと……。

途中、ノーラがおれを《聖剣の作り手に推薦する》と言ったことだけが引っかかったけど……。


一通り話を聞くと、王は深くうなずいた。

「これは……我々に勝機が見えてきたということだな」

「ええ、希望はあります」と、ノーラ。

彼女はミスリルが被っているフードを取った。


鉱石少女のご尊顔があらわになる。

周囲から驚きの声があがった。


ミスリルは細く華奢(きゃしゃ)な身体なのに、立ち姿の安定感がすごい。

片足を緩めるような仕草ができないからだろう。

事情を知らない人が見たら、武道の達人にでも見えるんじゃねーかな。


王がこちらを見た。

「ドワーフの里の鍛冶師、カジバよ。まずは魔鉱石ミスリルをここまで送り届けたこと、誠に感謝する」


いえいえと頭を下げておく。

こういった礼儀は全く分かんねぇから、ニュアンスでやっている。


「さて、そなたの《ミスリルを剣に変える力》なのだが、是非ここで見せてくれぬか? その力はこの国をいや、この世界を救う力になるかもしれんのだ」

「《世界を救う力ぁ》?」

「そうだ、我々はそれを〈錬成魔術(モーフィング)〉と呼んでいる」


モーフィング。

そういえばノーラもそんなこと言ってたな。


「いけそうか?」

ノーラがきく。


「やるさ」

なんか勝手に習得した気でいるけど……。

なんとかなれ!


「手ぇ出して」と、ミスリルに言う。

すると、彼女は「分かった」と手を差し出した。

おれはその手をしっかりと握る。


はじめてミスリルを剣にした時と同じ、強い力の感覚がある。

いけそうだ。

脳内で長剣のイメージを強めた。


ミスリルが輝き、その光が剣の形になっていく。

辺りに勢いよく火花が散る。


ノーラが辺りの人間を数歩下がらせた。



火花がやみ、おれの手元に立派な長剣が出現する。

その剣身は熱がひくようにオレンジ色から美しい銀へ変わっていった。


いってぇ……。

右腕がビリビリと痛む。

普段使っていない筋肉を使ったあとみたいな痛みだ。


「えーと、どうっすか。想像通りだといいけど……」


「想像以上だカジバ! 間違いなく魔鉱石を《モーフィング》した」

王が声をあげる。


左右の人間たちが息を呑んだ。


「まだいたのね……こんな鍛冶師が」

姫様は玉座から腰をあげ、前のめりになっている。


「凄まじい魔力だな。〈オリハルコン〉 確認できるか?」

王が言うと、姫様のそばに立つ黄金の髪の美女がこちらに歩き寄った。

前髪は眉の上あたりで切り揃えられており、浮く通った白い肌と整った顔がよく見える。

彼女はミスリルよりも少し年上に感じた。


「剣を拝借(はいしゃく)します」

オリハルコンと呼ばれた美女が両手を差し出したので、大人しく長剣を手渡した。


彼女は剣を両手で持つと、それをじっくりとながめる。

彼女の太陽のように輝く黄金の眼を見て、おれは確信した。

こいつも〈魔鉱石〉だ。


〈オリハルコン〉 とは、ミスリルと同じく希少な魔鉱石の名前である。

炎のように輝く美しい黄金。

あらゆる衝撃に耐える強靭な武器が作れると聞く。


「うん、十分」

彼女はそう言うと、剣をこちらに返した。


「ミスリルを劣化させずに剣の形にしています。もちろん《聖剣》にはまだまだ及びませんが」

オリハルコンが王に言った。


「この子、詳しいの?」

そう尋ねると、王は微妙な顔をする。


「彼女は〈元聖剣エクスカリバー〉ですよ」

となりの姫様がクスッと笑った。


「え?」

岩石王を滅ぼした、あの聖剣?

すげぇ人じゃん!

いや……すげぇ石じゃん!


「ですから彼女は聖剣製作の工程をその身に刻んでいます。彼女にはこの先、何度も頼ることになるでしょう」

と、姫様。


「それにしても君、すごい《対魔力》…。面白い」

オリハルコンは少しほほえみながら、おれの全身を観察する。


なんて?


「ミスリルを元に戻せますか?」

オリハルコンが尋ねた。


「たぶん」

剣を持ち、人型のミスリルをイメージしてみる。

……だけど。

思ったようにいかない。


「《人型に戻す》ではなく、武器を素材に戻すイメージをするの。製作工程の逆」

オリハルコンから助言が出た。


実際その通りにすると上手くいった。

ミスリルは剣から鉱石に戻ると、そのあと、人型へと擬態した。


「一度鉱石に戻してしまえば、私たちは自動的に何かに擬態するから、今後はこのように」

そうオリハルコンが教えてくれた。


「今後はこのように?」

おれは彼女の言葉をくりかえす。



「うむ。知っての通り、100年前に滅びた〈岩石王〉の復活が近い。エルフの森の〈妖精王〉によると、次の《日食》が魔王復活の最大のチャンスだそうだ」

困惑するおれはお構いなしで、王が説明を始めた。

「太陽が隠され、闇の魔力が活性化する」


「次の日食はいつすか?」


「我らの国の新年元旦。《5ヶ月後》だ」

王はゆっくりと答えた。

「我々はそれまでに岩石王を滅ぼす事のできる唯一の武器、〈聖剣エクスカリバー〉を再び手に入れる。そして、闇の王国にある〈岩石王の心臓〉を破壊する最後の戦いに備えなければならない。敵は今も魔王完全復活のために画策している」


「あいつら、ミスリルを欲しがってた」

「大陸には多くの魔鉱石が散らばっている。それは100年前に砕けた岩石王の一部だ。奴らは今それを回収している。種類はいろいろだ。その多くは小石ほどだが、中にはミスリルのような強力な石もある」

「あぁ魔王の一部だから取り戻してぇのか」

なんだかストンと()に落ちた。


「さて、これからそなたに頼まなければならないことがある」

と、王。


何すかねぇ……。

さっき聞こえた気がするけど。


「カジバ、そなたを〈聖剣の作り手〉に任命したい。どうか我々のために協力してくれぬか?」

「聖剣の作り手……。オレにエクスカリバーを作ってくれってことすか?」

「そうだ、そなたならできると考えている。いや、そなたにしか出来ないことなのだ」


はー。

なんだかすごいことになっちまったなぁ。


さぁて、どうしよう?


「あのぉ……聖剣ってさぁ、一番強い武器っすよね?」

そう王にきいてみる。


「ああそうとも」と、王はうなずいた。


「作り手に任命するってことはぁ……つまり。オレの聖剣作りをみんなが応援してくれるってこと?」

「そう捉えて貰って構わない。寝床や食事もこちらで用意しよう」

「まじすか!?」


まぁ〜わざわざ王に言われなくたって、おれは最強の武器を作る気だけど。

というかそれがオレの《夢》だしよ。


それを応援してくれる偉い人がいるのは願ってもない話だ。

王が応援するってことは、お姫様も応援してくれるはず。

女に応援されるのはうれしい。

おれを褒めてくれるやつはもれなく好き。


それに、飯と住居にも期待できるぜ。

ノーラのご馳走の約束も待ってるしな。


おいおいおいおい。

断る理由ねぇじゃん……。


「ガハハ! 作りますぜ、聖剣ってやつ! おれぇやりますよ!!」


こうしておれは〈聖剣の作り手〉に任命された。


ドワーフのみんな。

おれ、家に帰るのおそくなりそうだ。



---



左右の人間と王が広間を去ると、姫様が玉座から立ち上がり、こちらにやってきた。


「ノーラ、4年ぶり! 待ち侘びたよ!!!」

「……そう? ついこの間会ったばかりだと」

「エルフは時の流れる感覚がバカになってるの! ほら私、色々成長してるでしょ?」


目の前で4年ぶりの再会が行われている。


姫様がこちらを見た。

「私イルザ。よろしくねカジバ」

「え? あぁ、よろしくなぁ!!!」


この姫様、玉座に座っていた時とは別人みてーだな。

仕事との切り替えがすごい。


「ふたりとも、まずお風呂に浸かりなさい! 疲れをとるにはやっぱりお風呂よ!」

姫様はそのまま「早急に入浴の準備を」と臣下に命令する。


「風呂だぁ〜?」

「そうお風呂。早く着いてきて」

「ちょっ待って、ミスリルはどうすんの?」

そう姫様にきいてみる。


「んー。あの子は、しばらくオリハルコンが面倒を見るわ。日常生活を送れるように教育しないと」


「な、なるほどぉ……」

〈元聖剣〉ってことは、オリハルコンはミスリルよりずっと長生きなんだもんな。

先輩に色々教えてもらえよぉ、ミスリル!


「それじゃあ行くわよ!」


ノーラとおれは、姫様に無理矢理、王宮の奥へと連れていかれた。


ミスリルはその光景を不思議そうにながめていた――



---



おれは今、でっけぇ浴室で身体を洗っている。


立派な大理石の浴槽には、たっぷりのお湯。

入浴道具の説明を姫様から散々聞かされたので、律儀に従う事にした。


強引な姫様だぜ。


それにしても、この身体を拭く布……めちゃくちゃ肌触りがいい。

たまらん。


「お風呂〜〜!」

「イルザ、一緒に入るのか……」

「もちろん……って! なにその傷!? 左肩!」

「あぁ大丈夫、もう塞がってる」


壁を挟んだ隣から2種類の声が聞こえる。

姫様とノーラだ。


この城、なんとぉ! 浴室がふたつある!


おれの見立ては間違ってなかった……。

ここでの生活、困ることはなさそうだぜ。


「随分と立派な……」と、ノーラの声。

「勇者様の影響で、初代国王が風呂好きだったのはノーラも知ってるでしょう? お風呂最高っ!」と、姫様。


壁越しに聞こえる声か。

フッ

エッチだぜ……。


というか……姫様よ。

自分が風呂に入りたかっただけだろ!


まあ……おれも旅で汚れていたしな。

ドワーフのみんななら「土まみれの何が悪い!」と、笑うだろう。

でも、王宮の人たちはきれいな身なりだったしな。


だったらしっかりきれいにするぞぉ〜。


《豪に入れば郷に従え》

それが、うまく生き抜くコツだ。


お湯に浸かると、疲れが一気に引いていくのがわかった。

全身に染み渡る。

体温が上がるぅ。


しあわせだ。



生活が変わる時は一瞬だなぁ〜。


不安もあるけど、全然いい。

地下に引きこもっていた時よりも、ずっといい……。

生きてるって感じがする。



風呂からあがり、用意してあった白い衣服を着る。


廊下に出ると、姫様が待っていた。

「お風呂、随分と気に入ってくれたみたいね」と、姫様。


姫様は髪を下ろしていた。

彼女もちゃっかり入浴を楽しんだあとだ。


「待ってたわ、こっちへ」

そう言って彼女はおれの手をとる。


「え、ノーラは?」

「情報収集に行くって〜。全く……休み下手なんだから」


彼女に手を引かれ、後方を歩く。

あれぇ。

おれぇ今、風呂上がりの女の手ぇ握ってんだよな。


なんだぁ?

なんだ、これは。


こんなん好きんなるじゃん……。



---



「私の部屋にようこそ。ちょっとここに腰掛けて」


姫様の指示に従い、おれは椅子に座る。

椅子の下には布が敷かれていた。


目の前にはなぜか鏡があり、おれの姿が写っている。

あごあたりまで伸びているボサボサの前髪(普段は結んでいる)の間から、わずかに両目がのぞいていた。


「私のドレッサー、特別に貸してあげる」

鏡に映る姫様はおれの背後で銀のハサミを取り出した。


「は、え!? なんだぁ!?」

おれの引きつった表情を見て、姫様はいたずらな笑みを浮かべた。

彼女はチョキチョキとハサミを動かしている。


「かみ(神)よ……」と、姫様がつぶやいた。


「やべぇよぉ。やべぇやつだよ! こいつ!」


「かみ(髪)よ、髪! 髪の毛! 今のままじゃ濡れた野良犬みたいだし。私が整えてあげる。いいでしょ?」

姫様はクスクスと笑った。


ああ、髪かぁ……。

と、おれは肩の力を抜く。


「ああ……お好きに」

気の抜けた了承と対照的に、姫様はなんだかうれしそうだ。


おれは鏡に反射した銀のハサミに目を向ける。

なるほどな、散髪用のハサミかぁ……。

考えたこともなかった。


ドワーフの連中はみんな、ナイフを使って散髪していた。

まぁ、そもそもアイツら、めったに散髪しないんだけど。


にしてもよく出来たハサミだな。

見ただけで技術の高さがわかる。作ったやつに会ってみたいな。


姫様はおれの顔を真っ直ぐ前に向ける。


「心配しないで? 散髪は得意なの」

「ほんとかよぉ」

「ほんと、ほんと」


まあ……いいや。従うことにしよう。


「切るよ」

そう言うと、姫様は手慣れたように髪を切り始めた。


……うん、切れ味も良い。音も心地いい。

精度の高いハサミだぜ。


それにしても、こんなに無防備でいいのかと思う。

この状況、後ろから首を突き刺されても仕方ねーぞ?


でも……。

姫様は、なんだか落ち着く空気をまとっていた。

ふわふわとした気持ちになる。

これが王族の格ってやつか……?


考えるのをやめてゆっくりと目を閉じることにした。



---



「できた! うん。この方がずっと良い!」

姫様の声で目を覚ます。


鏡には様変わりした自分の姿が写っていた。

前髪の毛先が揃えられ、耳が隠れるほどあった横髪はさっぱりとしている。

あぁ? おれってこんな顔だったのか……。

茶色の中に少し緑が入ったような色味をした、自分の瞳をながめながら、ポカンと口を開ける。


「いかが?」

「頭さみぃ!!! なんだか落ち着かねぇよ…」


頭を大袈裟(おおげさ)に振ると、姫様に笑われた。

「ははっ本当に犬みたい! すぐ慣れるわ」


ドワーフのみんなへ。

あんた達みたいにワイルドな男に憧れていたけど、おれぇ……だいぶさっぱりしちまったぜ。


「姫様ぁ、手先が器用なんすね」

そう言うと、彼女はご機嫌になった。


「鍛冶師は好きよ。このハサミみたいに素晴らしい道具を作って、皆の暮らしを豊かにしてくれる。だからこそ悲しい、〈職人殺し〉によって多くの命が奪われたことが……」


「……そうだ。許せねぇ」

「職人殺しのせいで、途絶えた技術も多いそうよ。職人達が殺されていなければ、この国ももっと技術が発展していたはずなのに」


そうだ。

その通りだぜ、姫様。

だからこそ、おれは作らないといけない。


〈聖剣エクスカリバー〉を……。



---



散髪のあと、姫様はおれの部屋を用意してくれた。


ひとりで使うには広すぎる部屋。

ベッドが3つもあるぞ!?



真ん中のベッドに飛び込み、天井を見る。

……こんな夜が来るとは、夢にも思わなかったなぁ〜。

ドワーフのみんなにも伝えないと……。


しばらく天井をながめた後、おれはゆっくりと眠りに落ちた――

☆本作に登場する武器と種族のかんたん解説!☆


☆番外編!☆


■オリハルコン

古代ギリシャ・ローマの文献に登場する幻の金属。

本作では《最も硬く伸縮性がある》という一般イメージを引き継いで、黄金の鉱石として登場しているよ。


■バルドール

北欧神話に登場する光の神《バルドル》が名前の由来。

本作の王国名として登場しているよ。


■ヨトゥンヘイム

北欧神話に登場する巨人の国。

本作では魔王のすむ闇の王国として登場するよ。


またみてね!

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