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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第1部 「新たなる奇石」
4/42

3 「はじめての錬成」

おれたちはいくつもの(とうげ)を越え、荒野を走った。

途中で小さな村に寄り、必要なものを一通り買い揃えた。


ミスリルには服を用意した。

さらに、顔はフードで隠した。


「ミスリルは今、人に擬態している。完璧にね。奴らに魔力を感知されることはないが、顔は割れているから気をつけて」と、エレオノーラ。


「ああ、わかったぜ」

っとおれはうなづいた。


エレオノーラは《半エルフ》だそうだ。

人間とエルフの血が流れている。

よく見たら、彼女の耳は少し尖っていた。


彼女は歴戦の戦士だった。

〈勇者ハルマ〉の仲間として、100年前、岩石王と戦ったらしい。


つまり彼女は100歳をこえている。

ドワーフのみんなも200・300歳がザラだから、流石におどろかなかったけど。


道中、エレオノーラが世界史を教えてくれた。



---



ずっと昔、この大陸で、光と闇の戦いがあった――


光の勢力は、天空からやってきた、翼の民やエルフ。

闇の勢力は、地底からやってきた、巨人族やゴブリン。


長く続いた光と闇の対立は、徐々に均衡を保ち初め、戦争は終わりに近づいた。


しかし。

〈岩石王〉の登場で、その均衡は大きく崩れた。


岩石王の生み出した《動く石像の軍隊》よって、光の勢力は衰退。

闇の勢力は岩石王の傘下に入った。


岩石王の強さは圧倒的だった。

奴が生み出す魔鉱石は、あらゆる鉱石より硬く、光の騎士の鎧を容易く砕いた。


だが、勇者ハルマはその魔鉱石を武器に変え、敵のデタラメな力を利用した。



---



赤々と燃えている()き火の前で話すエレオノーラの表情は、どこかなつかしそうだった。

「この斧槍(ハルバード)は魔鉱石で作られている。名前は〈リサナウト〉。だから私は奴らに傷をつけられる」

そう彼女が言った。


なるほどな。

だから、おれの長剣は職人殺しに簡単に折られたのか。

魔鉱石で作ったものじゃなかったから……。



---



翌日。

澄んだ小川で身体を拭いていると、川岸でミスリルがうずくまっているのが目に入った。


「……?」

心配になり、彼女の方へかけ寄る。

エレオノーラは今、周囲の見回りに出ている。

おれがなんとかしないと。


華奢なミスリルの背中。

バリ……ゴリ……という変な音。

こいつ何か食ってんのか?


肩に触れると、彼女が振り返った。

「なっ、お前!」


ミスリルは、おれが集めていた魔鉱石を、まるで木の実でも食うように軽快に噛み砕いていた。

「ちょ、おおいっ! 腹壊すって!」

急いで彼女の口を開く。


くそっ、飲み込んだ後か。

おれは、魔鉱石を入れていた巾着に目をうつす。


「ダメだ、1個も残ってねぇ」


再びミスリルを見る。


彼女はカッと目を見開き、両手をブルブルと振るわせた。

呼応するように周囲の木々が揺れ、砂利が振動する。


「な、なんだぁ?」


「この魔力……彼女に何があった!?」

エレオノーラが息を切らせて戻ってきた。


「こ、こいつが、魔鉱石を食って……!」


「なっ、取り込んだのか。迂闊だった……」

エレオノーラが自身の額を叩く。

「彼女の魔力が辺りに漏れた。奴らも気づいたはず……」


「まさか」と、上空を見渡すと、少し離れたところを飛ぶ《巨大な黒い鷲》が目に入る。


最悪だ! 


「木陰だ! 急げ!」

エレオノーラが言う。


ミスリルの腕をつかみ、木陰に走った。

エレオノーラがを彼女を馬に乗せる。

おれも同じ馬に乗るように言われた。


「その子にフードを被せて早く行け! 背後から護衛する!」



おれはミスリルを抱え、全速力で馬を走らせた。

背後にはエレオノーラの乗る馬、その奥に大鷲の姿をした職人殺しが迫る。


エレオノーラがなにか口を動かしている。

呪文を唱えているようだ。


彼女が呪文を唱え終わると、「ビュウ」という風音が聞こえて、職人殺しの動きが鈍くなったのがわかった。

エレオノーラの背後に強風が吹き荒れ、職人殺しに向かっている。

〈風の魔術〉だ。


職人殺しは強い向かい風によって、ほとんど前に進めない。

おかげで、だいぶ距離を離す事ができた。


職人殺しはクチバシを開くと、大きな奇声をあげた。


「逃げきれんのか!?」

「もうすぐ光の平原だ、そこまでは奴らも追ってこれない。このまま逃げ切るぞ!」

と、エレオノーラ。


職人殺しは大きく翼をはためかせると、こちらに向かって、複数の羽を矢のように飛ばした。


エレオノーラが咄嗟におれたちをかばう。

彼女は斧槍(ハルバード)を振り回して、襲ってくる複数の羽を一気に弾いた後、バランスを崩して落馬した。


いや違う。

矢のように飛ぶ大きな黒い羽が1枚、エレオノーラの左肩に突き刺さっている。

弾ききれなかったんだ。


「あぁっ……!」

手綱を引き、馬の進行をとめる。


「バカ、逃げろ!」

地面に倒れたエレオノーラがこちらに向かって叫ぶ。


そう言うよな……。

でもヤダね!

「親切は倍にして返すもんだ」ってのが、ドワーフの教えだ。


エレオノーラはおいていかない!


「ここでテメェを倒す!」

馬を降り、職人殺しとエレオノーラの間に入る。


手元にあるのは、先が割れた形見の金槌(ハンマー)だけ。


恐怖で指先が震える。

無茶なのはわかってる。

でも……やるしかねぇ!!!


その時。


右手にひんやりとした感触があった。

振り返ると、馬から降りたミスリルがおれの手を握っている。

「なっ、おまえ……!」


その手を握り返すと、ミスリルの中から強大な力を感じた。

稲妻が全身を(ほとばし)るような感覚。


今なら、思い描いた全てが実現できるような気がした。


《武器が必要だ》

そう思った――


武器だ。

あいつを倒す、強い武器……。

みんなを守る強い武器。


イメージしろっ!!!!!!


その瞬間、ミスリルが光り輝いた。

握り合う手から大きく火花が散る。

熱くない。

ただ、膨大な力がおれとミスリルの間を流れていくのがわかった。


目の前にいる人型の光が変形し、手元に立派な《長剣(ロングソード)》が現れる。

ミスリルが……剣に変わった?


しかもこれ、おれの自信作〈レヴェル〉じゃないか?

一度折れた剣……。


「……今度は折られねぇ。《リベンジ》だ」


長剣に目を向けた職人殺しが、今までにない大きさの奇声をあげる。


長剣を強く握ると、力が湧き上がるのを感じた。

「こいつぁ……強いぜぇ」


職人殺しがこちらに照準を合わせ、一気に飛び込んでくる。


おれは強く踏み込み、やつに向かって長剣を振り下ろす。

白銀に光り輝く刃が、職人殺しの右顔を一気に切り裂いた。


放たれる悲痛の叫び。


これならいける!!!


「もう一発!!!」と長剣を振り上げた瞬間、職人殺しが空高く羽ばたいた。


「逃がすかよ……!」

再び長剣を構え直そうとするが、全身の力が抜けて一気に膝をついてしまった。


は? なんだ?

力が……。

はやく、あいつにトドメを……。

くそっ!

ダメだ……力が入らねぇ。


長剣に体力を吸われているみたいだ。


「くっそぉ」

どれだけ良い武器が作れても、その武器を使いこなす《使い手》がいないと意味がねぇ……。


顔を上げると、こちらに襲い掛かる職人殺しの爪が見えた。


まずい、やられる!


その時、目の前に人影が現れた。

エレオノーラだ!

彼女が斧槍で職人殺しの爪を防いでいる。

「よくやった、カジバ!」


エレオノーラが斧槍を持ち上げ、職人殺しの爪を弾く。

職人殺しはこちらと距離を取ると、全身を震わせて大きく膨張(ぼうちょう)しはじめた。


あのやろう……また姿を変える気か!


「……っ! させるか!」

エレオノーラが斧槍を力強く振る。

放たれた斬撃が大きな竜巻へと変わり、そのまま職人殺しに襲いかかった。


大地を(えぐ)るほどの威力。風に吸い上げられて渦巻く土と石。


エレオノーラは竜巻に向かって呪文を唱え始めた。

その呪文によって竜巻は一段と力を増し、職人殺しを巻き込んでいく。


職人殺しの膨張がとまった。

やつは大鷲の姿に戻ると、大竜巻からなんとか逃れ、そのまま遠くの空へと逃げていく。


なんとか撃退したようだ。


大竜巻はだんだん小さくなり、そのまま消えた。

職人殺しの姿はもう見えない。


エレオノーラは左肩を押さえ、一気に膝をついた。


「ま……て、職人殺しぃ……」

おれは立ちあがろうとしたが、足に力が入らずその場にたおれこんだ。


視界がぼやける。

手に持っていた長剣が少女の姿に戻るのが見えた。


ミスリルがこちらに顔を寄せる。

「……カジバ?」


ん?


今、ミスリルしゃべった?

ん? 

んん……?


おれの意識はそこで途絶えた――



---



目覚めると馬上だった。

おれは今、エレオノーラの(ふところ)に収まっている。


「あったけぇ……」

だらしない声が出た。


「目が覚めたか」

と、エレオノーラがこちらをのぞいた。


ぐちゃぐちゃになった記憶を探り、なにがあったかを思い出す。


「職人殺しと戦って……。そうだ、あんた怪我大丈夫かよっ」

エレオノーラの肩を見ようと首をひねる。


「こら、あまり動くなっ」

エレオノーラはおれをつかむと「大丈夫だよ」と笑った。


「よかった……あ、ミスリルは?」


エレオノーラは手綱を持ったまま「左手を見ろ」とあごで示した。


左手には、馬に乗るミスリルがいた。


「馬ぁ、乗ってんな……」

すまし顔で姿勢良く乗馬する姿は、なぜか笑えた。

なんだよあれ、様になりすぎだろ……。


ひとしきり笑うと、ミスリルが不思議そうにこちらを見た。

「カジバ。声。でかい」


鈴のように澄んだ高い声。


しゃべった。

やっぱこいつしゃべった……。


「エレオノーラ、これは?」

「ノーラでいい」と彼女がほほえむ。

「見ての通り、喋るようになったんだ。錬成魔術(モーフィング)の影響かな」


モ……?

なんじゃそりゃ。


「ノーラ。おれ、あいつを剣に……」

「そうだ、私は君に助けられた。本当にありがとう」

ノーラが頭を下げる。

「えぇ……!? いやぁ」


「君もだ、感謝する」

彼女はミスリルにもそう声をかけた。


ミスリルはこちらを見ると、少し首をかしげた。


「おれぇ、何がなんだか……」

そう言って右手を見る。

指を動かすとズギズギと痛んだ。


「その件については王宮で話すことにしようか」

ノーラはそう言うと前方に向き直った。


つられてそちらを見る。


少し先に大きな城壁が広がっていた。

戦鎚(ウォーハンマー)を持った騎馬隊がこちらに向かってくるのも見える。


え?


「止まれ!!! 何者だ!!! どこから来た?」


おいおい、一瞬で騎馬隊に囲まれちまったぞ。



騎馬隊はみんな、人間のようだ。


「黙っているとためにならんぞ!!!」


ノーラがフードをとると、騎馬隊たちがざわついた。

「私はエルフの森のエレオノーラ! そちらの国では〈守護者(ガーディアン)〉と呼ばれている」

彼女がそう言うと、騎馬隊の隊長らしき人物が前に出た。


「私は光の騎士団隊長、バレンタインと申します。まさかエレオノーラ様だとは気付かず、無礼をお許し頂きたい」


ノーラは「構わないよ」というように手を上げた。


かっけぇじゃん……。



ノーラは成り行きを手短に説明した。

説明が終わると騎馬隊はおれたちを囲うのをやめた。


「エレオノーラ様であれば問題ないと思いますが、念の為に城門で私の名前をお出しください」

と、バレンタイン。

「城門は日中開いておりますが、落とし格子がしてあります。もうじき外へ出ている農夫が戻ってくるので、格子が上がります。彼らと一緒にお入り下さい。それでは我々は見張りを続けます」

そう言って光の騎士団は去っていった。



---



城門の前に到着する。

巨大な石の城壁が街を囲んでおり、上を見上げると物見やぐらに配備された兵士たちが見えた。


近くの兵士にノーラとバレンタインの名を伝え、おれたちは農夫たちと共に町へ入った――


「ようこそバルドール王国の首都、〈ゴルドシュミット〉へ」

ノーラが言った。

☆本作に登場する武器と種族のかんたん解説!☆


斧槍ハルバード

北欧の万能武器。長い柄の先端が鋭利な刃物になっており、先端の左右には斧頭と尖ったスパイクがついているよ。


■エルフ

北欧の伝承に登場する人間に似た妖精。耳が尖っているのが特徴で美形が多く、長寿だよ。


■ゴブリン

ヨーロッパの伝承に登場する妖精。醜悪な外見で邪悪だよ。


またみてね!

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