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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第2部 「魔剣衝突」
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38 「ドワーフの里」

ドワーフの里に向かう前に、おれたちはもう1ヶ所寄り道をした。


おれの父ちゃんの仕事場。

おれが半年引きこもっていた洞窟の鍛冶場だ。


茂みに覆われた入り口は、変わらずそこにあった。

この辺りにはゴブリンも、動く石像もきてないらしい。

足跡が見当たらないからな。


「こっちだぜ」

後ろの仲間たちを呼んだあと、おれは茂みを突き抜けた。


「戻ってきたよ……父ちゃん」

鍛冶場の中に入ると、なんだかいろんな感覚が蘇ってきた。


金槌(ハンマー)の重さ。

鉄に打ち付ける時に動かす筋肉。

熱。

父ちゃんの匂い。

しばらく感じていなかった感覚が一気に解放される。


鍛冶場は当時のままそこにあった。

この空間だけ、時が止まっているみたいだった。


部屋の中央にはがっしりとした造りの机。

その上には薬草と木の実をすり潰したスープもどきの食べ跡が、ミイラになって残っている。

ここで食った最後の食事だ。


自然と苦い顔になってしまう。


これクソ不味かったなぁ……。

だけど、あの時はなにか食わないと死んじまう状態だった。

死ぬのは嫌だったから、おれは洞窟を出た。

そしてドワーフに拾われた……。


「か、カジバはここで生きていたんだね……」

と、ミスリル。


「ああ。色々ボロいけどさぁ……」

おれは頭を掻きながら散乱する鍛冶道具を片付けた。


ここはおれの気持ちが落ち込んでた時期の住処(すみか)

そのせいか、色々とモノがごちゃついている。

あの頃のおれの頭の中と一緒だ。


汚い部屋だって思われてんだろなぁ……。

ミスリルに見られるのは、なんだかちょっと恥ずかしい……。


「それにしても良い武器が揃っているな」

ハルジオンが腕を組みながらあたりを見回す。


「だ、だろぉ!」

と、得意げに胸を張る。


鍛冶場の壁には父ちゃんが作った武器がずらっと並び、その奥にはおれが再現した武器が雑多に置かれている。


戦鎚(ウォーハンマー)に、(アックス)に、(ボウ)

その他諸々。

一番多いのは、長剣(ロングソード)だな。


おれと父ちゃんが作った武器は、ここにあるものが全てじゃない。

ホッドミーミルの森には、ここにある分の倍の武器がいたる所に仕掛けられている。

あらためて考えると、すげえ数の武器を作ってるなぁ……。

おれも、父ちゃんも。


手のひらを見つめる。

カサカサで分厚い皮膚には、ざまざまな傷跡が消えずに残っている。

傷のほとんどはこの鍛冶場でつくったものだ。


……ここでの努力が、今のおれを作っているんだなぁ。

なんだか感慨深いぜ!!!



---



「そろそろ出ようか」という話になった時、突然、ハルジオンが短剣を引き抜いた。


「誰だ!!!」

彼は入り口の方をにらみつけて素早く洞窟を飛び出す。


残されたおれたちは動揺しながらお互いを見つめ合った後、ハルジオンを追った。



茂みを抜けて洞窟を出ると、辺りを見回した。


数フィート先には右眼を押さえたハルジオンがいる。

ハルジオンはおれの頭上に目をやると、こちらに向かって勢いよく飛び上がった。


「なっ!!!」

上空を見上げる。


そこには3匹のゴブリンがいた!

木の上に潜んでいたんだ!


やつらはおれに向かって飛び掛かる。


絶体絶命っ!


しかし、ハルジオンがひとっ飛びで、3匹のゴブリンの正面に現れた。

ハルジオンの動きは今までよりも一段と速い。

多分、気の魔力のおかげだな!


「俺を甘く見たな! ゴブリン!!!」

ハルジオンが魔剣グラムを振る。


破技ブレイクアーツ三剛斬(トリリアントカット)!!!」


力強い直線の斬撃が一瞬で複数重なる。


3匹のゴブリンが同時に斬られたように見えた。


ハルジオンは上空で体制を立て直すと、そのまま地面に着地した。

その後、3匹のゴブリンがおれの周囲に落ちる。

おれはギョッとしたまま動けない。

ゴブリンはもう2度と動かなかった。



ハルジオンは着地したまま、森の奥に目を凝らしていた。

「奥にも人影が……」

そう言ったあと、痛そうに右眼を押さえた。


「ハルジオン!!!」

おれはヘイミルと彼の元に駆け寄る。


茂みから出てきたエグレとミスリルもこちらに駆け寄った。


「くそっ! 肝心な時に……」

彼は右眼につけた眼帯を握り潰して投げ捨てた。


緑に光る天眼が(あら)わになる。

「突然……この〈天眼〉で敵の姿が見えたんだ。不意打ちを狙う上空のゴブリンが……」


「見えたって……眼帯してたのにかぁ?」

「ああ。眼帯を透過して景色が見えた。凄い力だな……この眼は。それで森の奥にも怪しい影が見えたんだが……」

彼は目を細め、森の奥を見据える。


「……もしかして、マスター?」

エグレが怯える。


「いや、男だ。多分。男に見えたが……途中で見えなくなった」

ハルジオンがエグレに言う。


「俺はまだ、この眼を使いこなせないのか……」

彼は唇を噛んだ。


「とにかく助かったぜハルジオン。こりゃぁ先を急いだ方がいいみたいだな。悪りぃ、寄り道しちまって……」



---



おれたちは急いで川を越え、ドワーフの里につながる抜け道を進んだ。

ドワーフの里につながる道は、普段、岩の模様や地形を利用した錯覚(さっかく)で隠されている。


魔術より技術。

これがドワーフたちの特徴だ。

決して頭が悪い種族じゃねぇんだぜぇっ!!!



川を渡った先には動く石像の足跡があった。

心配していた事だけど、やはりやつらは川を渡れるようになってやがる……。


ドワーフのみんな……無事でいてくれよぉ!


せまい一本道を抜けると、おれたちは眩しさに目を細めた。

「なっ、なんだぁ!!!」


ひたすら眩しい!!!

暴力だ!!!

光の暴力ぅ!!!


おれたちの乗る馬がその光で一斉に立ち止まった。


「んにゃぁっ!」

ミスリルが目を瞑った。

光を遮ぎろうと両手で顔を覆う。


「は? 何ぃ!!! これぇ!!!」

エグレは不快そうに叫んだ。

彼女の髪の蛇たちは眩しそうに後ろを向いた。


「ここにあるのはドワーフの里の門のはずぅ……」

目を凝らすと、見覚えのある門があるのが分かった。

間違いない。

ドワーフの門だ。


しかしその周りを覆うように強い光を発するなにかがおかれていた。


光を発しているのは石だ。

あんなもん、前はなかった。


おれたちはだんだん目が慣れて、辺りの様子がわかるようになった。

里を囲む壁はおれがいた時より2倍近く高くなっている。

光る石は門と壁を沿うように配置されていた。


「これは一体……」


すると、光の先から声が聞こえてきた。


「こいつぁ〈太陽石〉だ。わかるかぁ」

光の先でだれかが言った。

「太陽の光を蓄積する石。夜でも太陽の光を作ることが出来る。動く石像対策にはもってこいさ。奴らは太陽の光を浴びると動けなくなるからなぁ」


「この声は!!!」

一瞬でピンときた。


「アルヴィース!!!」

おれはグルファクシから降りると光の中から現れたドワーフに駆け寄った。


「カジィ!!! 飯は持ってきたなぁ?」

アルヴィースが大きな声で言う。


「ガハハ、それがですねぇ!!! …ねぇです!!!」

そう言った瞬間、顔前に拳が飛んできた。


「ブヘェエエエ!!!」

アルヴィースにぶん殴られて、遠くに吹き飛ぶおれ。


「カ、カジバァ!?」

ミスリルのおどろく声が聞こえた。


おれはゆっくりと身体を起こすと、頬の痛みをしみじみと噛み締めた。


「カジ……よく戻った!!!」

アルヴィースがおれの目の前に手を差し出す。


彼はトゲトゲとしたあごひげを蓄えている。

額には円形のゴーグル。

分厚いケープを羽織り、大きなベルトには金槌(ハンマー)がいくつもぶら下がっている。


「ガハハ。ただいま、アルヴィース」

おれはその手を握った。



「アンタがアルヴィース……」

ハルジオンが馬を降りる。


ミスリル、ヘイミル、エグレもそれに続いた。


「旅の仲間か? 全員若いな」

アルヴィースがハルジオン達を見て尋ねる。


おれはうなずくと口を開いた。

「おれたちは〈聖剣作り〉で……」


そこでアルヴィースが手を前に出して会話を止めた。

「気をつけろ。闇の生き(もん)が聞き耳立てとる……まぁ、とにかく中に入れ!」

彼はそう言って道を開けた。



---



おれたちは門を潜り、ドワーフの里に入った。


背後で門が閉まる。

前方を見ると角張った兜を被った屈強なドワーフ戦士が待っていた。

彼は警備隊隊長だ。


「ヴェイグ!」

両手を挙げて彼を呼ぶ。


「カジバ!」

ヴェイグが片手を挙げて答えた。

「事情は大体把握している。同行者の身分だけ確認したい。構わんな?」


おれはうなずく。

ヴェイグはドワーフの中ではかなりまともな部類だ。

それゆえに苦労人でもある。


おれは旅の仲間を順に紹介していった。

「こいつはハルジオン。人間の戦士」

「で、こいつが魔鉱石のミスリル。〈擬態〉っていう特性で今は人間になってる」

「こっちはヘイミル。ミズガル王国の王子」

「最後に、エグレ。ゴルゴンで魔王軍の奴隷だった」


「…面子が濃いな」

ヴェイグがあごに手を当てる。

「お前たちはこの里にある〈水の神殿〉に行きたい。そうだな?」

「ああ」

我輩(わがはい)もよく知らないが、神殿での試練はどうやら里に危険を及ぼすようだな?」

「そうだぜ。魔鉱石の魔力を引き出すことになるからさ。その魔力に引き寄せられて〈職人殺し〉が里を襲いに来る可能性が高けーんだ」

と、事実を素直に伝えた。


これはエルフの森の〈妖精王〉も心配していたことだった。


「分かった。まぁ我輩の仕事はお前たちの身元を知る事だ。追っ払う気はない。試練の許可はドワーフの長に判断してもらう」

ヴェイグはそう言って両手を広げた。

「ドワーフの里へようこそ!! この里は3つの階層に分かれている。一番外側であるここは〈3戸〉と呼ばれている。中間は〈2戸〉。そして奥に見える鉱山の中が〈1戸〉。1戸には里長(さとおさ)がいる。これからお前たちは1戸に行き、里長に挨拶をしてもらう」


「待て。その必要は無くなった」

ヴェイグの背後から重く響く低音の声が聞こえた。


「ん? あっ!!!」

ヴェイグが背後を振り返っておどろいた。


「俺の方から来た!!!」

背後の男が言った。


「あれは…」

ハルジオンが目を丸くする。


「俺の名はガラール・フレグル。〈4英雄〉の1人、フィアラル・フレグルの息子であり、この里の里長だ!!!」

半巨人だと言われても信じてしまうくらいの巨体を持つ彼がニヤッと笑った。

またみてね!

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