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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第1部 「新たなる奇石」
19/42

18 「土の試練 前編」

「神殿はどこ?」

ノーラがきく。


「埋めたわ」

ノーミードはすました顔でガラス張りの建物を指さす。

「その上にお店を作ったの。そう、そこよ。お気に入りなの」


ノーラが頭を抱える。

「神殿はハルマが作った神聖な……」


「はいはい〜。アナタは仕事があるでしょ。早く行きなって」

ノーミードが話を(さえぎ)った。


このふたりはどうやら知り合いのようだ。



ノーラは溜息をつくと、おれたちを見た。

「もうすぐ、この森の結界が弱まる。私は警備隊に加わるから後は彼女の指示に従うように」


そう言うと、彼女は近くの木々を飛び移って遠くへ行ってしまった。



「さて、アナタたち。こっちよ」

ノーミードがガラス張りの建物へ向かう。


おれたちは顔を見合わせた。


ハルジオンが進み出したので、おれとミスリルもついていくことにした。


「埋めた〈土の神殿〉に行くんですか?」

ハルジオンがノーミードに尋ねる。


「そうね〜。でもまずは私のお店の仕事を手伝って。ひとりだと大変なの」



おれたちは建物の前まできた。


「ファッションブランド〈Gnomidノーミード〉……完全に店だな」

ハルジオンが建物につけられた看板を見ながら言った。


おれは目を()らして店内を観察してみる。


衣服が並んでるな。

人の上半身を(かたど)ったものに、服を着せて保管している。

帽子や鞄も部屋の端に陳列されていた。


衣服への興味は個人差があった。

ミスリルは完全に目を奪われている。

ハルジオンは全く興味なし。

おれは素材や職人が気になりがち。


「服?」

ハルジオンが眉を寄せる。


「職人を集めて服屋を始めてみたの。地下に倉庫があるから、ちょっと生地の整理を手伝って?」

ノーミードがハルジオンを横目で見る。


「いや、こっちは時間がないんですよ。趣味より試練を優先してください」

ハルジオンが静かに抗議する。


「私はどっちでもいいの。光の種族が滅びようが、闇の種族が滅びようが」


「……なんだと?」

ハルジオンが腰の短剣に手をかけた。


「はぁ……。前任者といい、血の気が多い子たちね。ウルカヌスあがりは皆こうなの?」

ノーミードはフッと笑う。

「じゃあアナタたち。私が勝ったら、言いなりね?」


ハルジオンが短剣を抜いた。


「おい、アナタたちって……。俺もかよぉ?」

ガックリと肩を落としながら言う。めんどくせぇ。


ミスリルはおれとノーミードを交互に見て、困惑していた。



ハルジオンが素早く前に出た。

しかし、ノーミードの姿がすでにない。


ノーミードはいつの間にかハルジオンの背後におり、彼の腕をひねって短剣を落とした。

そして、そのまま彼の頭を地面に叩きつける。


「ぐぁぁっ!」

ハルジオン、ダウン。


ノーミードはハルジオンの頭をつかんだまま、おれを見た。

彼女が怪しく笑う。


おれは真下に違和感を感じ、横にいたミスリルを後方に下げた。


その瞬間、地面からデケェ根が現れた。

おれとミスリルはそれに弾かれて一緒に吹き飛ぶ。


「ぐぇぇぇえっ!!!」


ノーミードがハルジオンから手をはなす。

「馬鹿ね、鍛冶師の坊や。その魔鉱石を壁にすればいいのに」


「あ、確かに」

ミスリルはおれの背後で目を回している。


つい守っちまった。魔鉱石だってこと忘れてたぜ。

絶対ミスリルの方が耐久力あるよなぁ。


ノーミードがこちらに向かって歩き出す。


「おい、やるぞ!」

そう言って、ミスリルと手をつなごうとする。


「だーめ」と、その手をとめられた。

いつの間にかおれの真横にノーミードがおり、彼女の灰色の瞳と目が合う。

「擬態を解くのは、もう少しあと」


「あんた、さっきまで正面に……」

目の前を見ると、そこにもノーミードの姿があった。

「あ? 増えた?」


おいおい、ふたりいるぞ。


〈腕伸び野郎〉の次は

〈分身女〉かよぉ……。


おれの負け。

なんで負けたか(以下略)



---



おれたちはノーミードの仕事を手伝うことになった。


ガラス張りの建物には地下へつながる階段があり、降りた先にある馬鹿みたいに広い地下室は、布の保管庫になっている。

おれたちはそこでノーミードの指定する生地を探す仕事をしている。


「っていうか……。この保管庫、神殿じゃね?」

我慢できずにつぶやいた。


内装が火の神殿と似てる。


「埋めたの」

ノーミードがつぶやく。


「それはさっき聞いた」

「どう使っても構わない、ってハルマも言ってたわ」

「何で店を?」

「道楽よ。私は暇だったし、エルフも興味を示した」

ノーミードが巻いた布地をおれに手渡す。

「エルフはね、皆外見が似たり寄ったりなの。クセのない顔の美男美女ばかり。だから個性が出せる衣服に興味を示した」


「……こんな時に」

ハルジオンがノーミードをにらんで唇を噛んだ。


「プレシャス! 何かを作ることは良いわ。たとえ世界が暗くても、明るいことを考えられる。想像力のおかげね」

と、ノーミード。

「私たち守護霊は岩石王に直接干渉できないの。エルフも魔鉱石に対して何もできない。それでも私たちは、何かできることを探して足掻いてる。そんな感じ」


「分からないですね」

ハルジオンがつぶやく。


「服があれば、とりあえず安心できるでしょ?」



---



「お疲れ様、助かったわ」

ノーミードは背伸びをした。


「これで試練してくれますね?」

ハルジオンが腕を組む。


「そうね」と、ノーミードがうなずく。


「まずは……丁度いいわ。こっちへおいで」

彼女はそう言って、おれたちを地下室|(神殿)の奥へ招いた。


奥の部屋には祭壇があった。

祭壇にある石の台座にガラスケースがおいてある。


その中には立派な《戦鎚(ウォーハンマー》があった。


「これが土の聖宝器、〈インパクトクラッシャー〉」

彼女が説明する。

「4英雄の1人であるドワーフ。《不動のフィアラル・フレグル》が使っていたわ。彼はそう……いい感じだったわね。みっともなくない」


4英雄。


これで全員判明したなぁ。

《底なし》のブリュンヒルデ。

《削岩王》ゴルドシュミット。

《黒の流星》エレオノーラ。

《不動》のフィアラル・フレグル。


これが勇者ハルマの仲間か。


〈フィアラル・フレグル〉という名前には聞き覚えがあった。

ドワーフの里の英雄のひとりだ。


しても……ドワーフの武器がなんでエルフの森にあんだ?


ドワーフとエルフ。

昔、ふたつの種族の仲は最悪だったらしい。


性格が合わない。食の文化も合わない。

だけど100年前、同じ光の勢力の連合軍として戦ってからは多少仲が深まったそうだ。


ドワーフのみんなの話を聞くかぎり、現在の2種族の関係は《つかず離れず》と言った印象だ。

お互い、そういう生き物だと許容しているようだ。


そういうわけで、長くドワーフとくらしてきたおれはエルフに多少偏見があった。

(ドワーフのやつらは事実をかなり誇張してしゃべる)


まぁそれも、エレオノーラとの出会いのおかげでかなり解消されたけど。



「何でドワーフの武器がエルフの森に?」

と、ノーミードに尋ねてみた。


「バラバラなのよ、あえて」

彼女が言った。

「100年前の戦いの後、聖宝器はバラバラに封印されたわ。ドワーフの武器はエルフに、エルフの武器は人間に……といった具合。聖宝器を兵器利用しないように。また、それぞれの種族が再び結束できるように。そんな企みがあったのね」


「なるほどなぁ〜」

少し感心した。


「さて、それじゃあ土の魔力の譲渡に移りましょう。移動するわ」

ノーミードが手を叩いた。



「ん〜、ここに決めた」

ノーミードはおれたちを神殿と集落の中間あたりに連れてきた。


地面は土。木の葉が落ちている。


「エルフもね、土葬なの。昔は不老不死の種族だったけど。力が衰退して、死の届く種族になった」

ノーミードが唐突に言う。

「この辺りの木々は全て、元エルフ」


「元エルフ?」

「そう、死んだら木になるの」


「……ここに移動する必要があるんですか?」

ハルジオンが尋ねる。


ノーミードは片手でその質問を遮る。

「土属性。万物の素にして、還る場所。五大属性の中で最も便利。私は大好き」


そりゃ、自分の属性だしな。


「ふたりは身の回りの装備をとってくれる? カバンや武器……」

ノーミードがおれとハルジオンに言う。


「エプロンは?」

「それはいいわ」と、彼女は首を横に振った。


ハルジオンは不満そうに腰の短剣を外している。


ミスリルはそんなおれたちを無言でながめた。

「あ〜、魔鉱石ちゃんは待っててね」と、ノーミードが彼女の両肩に触れる。

「あっ……はい」と、うなずくミスリル。


「アナタたちは既にひとつ、属性魔力を授かっている。そうよね? 2つ目以降は身体に馴染むのに少し時間がかかるわ。覚えておいて」


「どのくらいですか?」と、ハルジオン。


ノーミードは唇に手を当てて考えた。

「1日……と、半日かな」


ハルジオンは小さくため息をつく。


「焦らないことね。きっと大事な時間になるわ」

彼女はおれとハルジオンの頭に手を乗せた。

「魔力を送ったら、外に目を向けること。自分を見失わないこと。いいわね?」


「どういうことです? もっと詳しい説明は?」


「死は唐突。運命は待ってくれない」


頭上に強い力を感じる。

次の瞬間、おれの視界は真っ暗になった。

またみてね!

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