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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第1部 「新たなる奇石」
17/42

16 「相棒」

オリハルコンの話を聞いたあと、おれたちは大広間を出た。



王宮の中庭にはケンタウロスたちがいた。

その中にはケンタウレの少女、トネリコの姿もある。


ケンタウロスは手紙や物を各地に運ぶ仕事をしているやつらで、おれも彼女に頼んでドワーフの里に手紙を出していた。

どうやらおれたちが火の試練している間に戻ってきたみたいだな。


「ああ〜カジバさんだ! お探ししました〜」

トネリコがおれに気づき、太陽のような笑顔を見せる。


なんだか、こっちまで元気が出るなっ!


彼女はパカラパカラと4本足でこちらに駆けた。


「私たち〜各地に届け物をしてきた所です。ドワーフの里にも、お手紙届けられました〜」

トネリコがほほえんだ。

「アルヴィースさん宛でしたね〜。アルヴィースさんから伝言を預かっています」


伝言?

まあ、手紙を書くようなやつじゃないか。


「ありがとなっ! えぇと、伝言は言ってくれる感じ?」


「えっと〜はい。私が言いますね〜」

トネリコはそう言うと一つ咳をした。

そして口を開く。



アルヴィースの伝言 声:トネリコ


「こらぁああああああ〜〜〜〜〜〜!!!!!!

ぶっっっとばすぞぉおおおおおおお!!!!!!

《夜に出歩くな》と何度も言っただろうがぁマヌケェ!

部品の製造も残っている。

食器洗いもお前以外の奴はゴミみたいに下手くそだ!

さっさと聖剣作って戻ってこいっバカタレェ!

5ヶ月待ってやる!


追伸:帰ってくるときは王国一の飯と酒を持ってくるように」


伝言を言い終わるとトネリコは「フンッ」と鼻息を立てた。

なぜか気持ち良さげだ。



にしてもびっくりした。

まぁ、らしいといえば、らしい伝言だけど。

(追伸って、口頭で言ったのかよ……)


トネリコの可愛い声のおかげで、まぁまぁ聞けた。

というか毎回これがいいな。

彼女にはアルヴィースの専属の声当て役になってもらおう。



「現場の覇気を伝えられるように、がんばりましたぁ〜」

と、トネリコ。


あ、そっか、こいつは本物の罵倒(ばとう)を聞かされたのか。

なんかごめんなっ!!!


「えっと。伝言にあった《聖剣を作る》って……もしかして〜あの聖剣エクスカリバーですか?」

トネリコの質問に、おれは素直にうなずいた。


「わぁ、カジバさんは凄いんですね〜。あっ、カジバ様って呼んだ方がいいですか?」

トネリコがアワアワと手を動かす。

「いや、カジバでいいよぉ」



「あっお前……。方向音痴のケンタウレか」

となりのハルジオンが思い出したように口を開いた。


「はぇぇっ! えっとっ、は、はい! そうです……」

トネリコはハルジオンを見ると、少し恥ずかしそうにうつむく。


「なに、知り合い?」

と、ハルジオンにきく。


「前に一度道案内をしただけだ」

ハルジオンはぶっきらぼうに答えた。


「私は結構見てましたよ……。ハルジオンさんは、お姫様の護衛をされていて凄い人です」

トネリコが遠慮がちに言った。


ハルジオンは姫様の護衛としてみんなに認識されている。

《勇者の末裔》であることは、ほんの一握りしか知らない。


「ハルジオンさんは強くて優しい人です。……勇者様みたいで尊敬します〜」


勇者という言葉に一瞬ハルジオンが痙攣する。

「……俺が優しい?」


「はい。ここの小鳥さんたちがいつも言っています〜」

トネリコが中庭を見回した。


「鳥……。話せるのか?」

ハルジオンはおどろいていた。


トネリコは嬉しそうにうんうんとうなずく。


「すげえ、ケンタウロス語に大陸語……。それに、鳥とも話せんのかぁ」

なんだかすごく感心した。


トネリコは少し照れると、その後真面目な顔になった。

「ケンタウロスは……魔族です。100年前は魔王軍にいました。ケンタウロスはミノタウロスの奴隷で、人間との交渉のために多言語を喋れるよう教育されてきました。その名残が私の家系にはあって……」


……そうだったのか。


「勇者様はケンタウロスを奴隷から解放してくれた優しい人です。ハルジオンさんには〜そんな勇者様のような優しさを感じていました」

トネリコは顔を赤くしてつぶやいた。


んー変なところで鋭いなぁ。こいつ。



「〜って。こんな話、どうでも良いですよね〜! なんでこんなこと喋っちゃったんだろう……」

トネリコは顔を背けると、おれの背後にくっついているミスリルに目を向けた。

「あれ、あなたは?」


「ああ、こいつはミスリルだ。結構人見知りで……」

と、ミスリルを背中から剥がそうとするが、彼女は頬を膨らませて、無言で抵抗してきた。


「ミスリル……さん? 有名な魔鉱石と同じ名前ですね〜」

「あっ、えっとぉ〜それは……」


「まさに、その鉱石が彼女の名前の由来なんだ」

おれの言葉を遮ってハルジオンが説明した。


ミスリルがホンモノの魔鉱石だってこと、隠す気だな。


まぁ……あえて言う必要もないかぁ。

極力外部には言わないことになってるし。


「あ……そうなんですね〜! 私の名前は植物が由来なんですよぉ〜」

トネリコがミスリルにほほえんだ。


「えっ……えへっ……」

ミスリルが彼女に愛想笑いする。


交流が下手すぎる……。

おれとふたりの時は、結構普通に喋るんだけどなぁ〜。


「すっっっっっっごく、可愛いですねっっっっっっ〜!!!」

トネリコがミスリルに笑顔を向ける。


「すっ……すっごく……。まっ……眩しいです……」

ミスリルがトネリコの笑顔にやられた。



「あ、そうだ! トネリコ〜、おれたちの馬を選んでくれないか?」

と、おれは思いつきで提案してみる。

「おれたちエルフの森に行くんだよ。そんで、乗っていく馬をこれから選ぶんだけどさ」


この後、近くの馬小屋に行く予定だ。

先に行ったノーラがおれたちを待っているはず。


「ちょ、お前」

ハルジオンがおれを咎めた。


おれの提案にトネリコは少し驚いていた。


「……なっ、なんかマズった? 今の」

ハルジオンに小さく尋ねる。


「いや俺も分からんが……」

ハルジオンがトネリコの顔色を伺った。


「……。いえ、嬉しいですよ〜! 私が適任だと思ってくださったんですね〜!」

少しの沈黙の後、トネリコが笑顔で両手を合わせた。


「……ふう」

おれたちは安堵の息を漏らす。



---



馬小屋の前でノーラが待っていた。


「きたね。おや、ケンタウレも一緒か?」

ノーラは少しおどろいた。


「彼女に相棒を紹介してもらおうと思って」


「なるほどね。こっちだ」

ノーラがあごで馬小屋の入り口を示す。



馬小屋には飼育馬の世話人が数人いた。

彼らはケンタウレが入ってきたことに、少しおどろいていた。


「私が連れてきた馬も、ここでお世話になっている」

ノーラは一番手前の馬を見た。


赤茶色の馬。

見覚えがある。

王国に来るときにノーラが乗っていた馬だ。


「この子は〈バヤール〉。私の相棒。エルフの森で生まれた子だよ」

ノーラが紹介した。


「ここの飼育馬の中からそれぞれ相棒を選ぶんだけど、確かにケンタウレなら、きっといい子を見つけてくれるだろうね。私からもお願いできるかな?」

ノーラがトネリコに言う。


「っ! 任せてください〜!」

トネリコが元気に答えた。



「おれが乗る馬と〜桃頭が乗る馬、あとミスリルが乗る馬よろしくな」

と、トネリコにお願いする。


「あっ……私はカジバの馬に……一緒に乗るので……」と、ミスリルが小さく言った。


「あ〜、じゃあおれと桃頭の相棒を頼むぜ!」


トネリコはうなずくとおれたちの前に立った。

「そうですね〜。まずはこんな子がいい、という要望を教えてください〜」


「おれはぶってぇ心の、でっけぇ馬だな!」

そう彼女に要望を出す。

相棒はそれくらいじゃないとなっ。


「は、はい〜!」

トネリコは一応返事をしたが、ちょっと分かってなさそう。


「こいつの言う《でっけぇ》ってのは《強い》って意味だ」

ハルジオンが補足した。

おーなんだよ。分かってんじゃん。


トネリコは「なるほど〜」と、うなずく。


「ハルジオンさんは〜馬に乗ったことは?」


「ないな。この町には馬車で来たから」

ハルジオンが素直に答える。


「なるほど〜こんな子がいいという要望はありますか〜?」

「賢くて速い馬がいいな」


ふんふん、とトネリコがうなずく。



---



トネリコは馬小屋を一通り回った。

みんなに挨拶をしてコミュニケーションを取ったようだ。

その後、おれたちの前に戻ってきた。


「まずハルジオンさん。こちらの方が適馬だと思います〜。聡明で速さに自信がありました。名前はグラニテイオー」

トネリコが灰色の毛並みのすらっとした牡馬を紹介する。


「テイオーか、昔流行った名だな」

と、ハルジオン。


「はい〜。勇者ハルマの愛馬〈ハルカゼテイオー〉の影響で、名前にテイオーをつけることが一時期流行りましたね〜」


「ハルジオンだ。よろしく頼む」

ハルジオンがグラニテイオーに近寄る。

グラニテイオーは彼にゆっくりと頭を下げた。


その様子を見てトネリコがほほえんだ。


次におれの馬だ。

トネリコが推薦したのは、がっしりとした体格で茶色い毛を持つ牡馬だった。

その馬はおれが王国に来るときに乗った、ノーラが連れていた、もう1匹の馬だった。


「おまえぇ、やっぱり相性良かったんだなぁ!」

「彼はグルファクシと言います〜。えっと……『俺が一番でっけぇから、そこんとこよろしく』とのことで推薦しました〜」


ふうん、自信だね。

てかおまえ、そんな性格だったのか。


「おれは鍛冶師のカジバ。またよろしくなぁ、グルファクシ!」

と、グルファクシの首を撫でた。


「その子もエルフの森で生まれた子だ。主人と認めた者に危険が迫った時、《たてがみが金に光る》と言われている」

と、ノーラが説明する。


「そうなのか……すげえな! サイレンスに襲われた時は光んなかったけどぉ」

「あの時はまだ主人ではなかったからな」

「じゃぁ、これからは主人……いや《相棒》ってことで!」



---



「正直、馬小屋に入るのは怖かったです。私の種族は元々奴隷でしたから。でもこの国は馬を大切にしていますね〜。ここにいる子たちもみんなそう言っています。よかった〜」

トネリコが胸を撫で下ろした。


ああ、やっぱりそうだったのか……。

思いつきで無理させちまった。

「気づかなくて悪りぃ」


「いえいえ、嬉しいんですよ〜。冷やかしではなく、私の性質を認めた上でのお願いだったんですから〜!」

トネリコが強く言った。

「良い旅を。気をつけてくださいね〜」



---



翌日。

おれたちはゴルドシュミットを出て、エルフの森へと向かった。

☆本作に登場する武器と種族のかんたん解説!☆


■ミノタウロス

ギリシア神話に登場する半人半獣。頭が牛で身体が人間の種族だよ。

本作ではケンタウロスを奴隷にしていた闇の魔族として登場。


■グルファクシ

北欧神話に登場する馬。〈金のたてがみ〉を意味する名だよ。

本作では主人の危険が迫った時、たてがみが金色に光る馬としているよ。


■グラニ

北欧神話に登場する馬。灰色の毛並みの牡馬。

オーディンの持つ馬《スレイプニル》の血を引いているよ。

本作では《グラニテイオー》という名の雌馬として登場。


■バヤール

フランスの伝承に登場する馬。魔法の馬で赤毛に黄金の心臓、キツネの知恵を持つとされているよ。


またみてね!

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